『Infinite Warfare』
『Call of Duty』シリーズなどで知られるActivision Blizzard(以下、Activision)が、『Call of Duty: Infinite Warfare(以下、Infinite Warfare) 』において知財権を侵害したとして訴訟を提起されていたようだ。しかし、結果として訴えは退けられ、Activisionを訴えた原告側が、逆に賠償金の支払いを求められる結果に。というのも、原告側の主張は裁判所にとっても目を疑う内容だったようだ。海外メディアKotaku が報じている。
『Infinite Warfare』
Kotakuおよび米弁護士事務所「Wilson Sonsini Goodrich & Rosati」によれば、Activisionが訴えを起こされたのは、2021年の現地時間11月30日のこと。原告となったのは、Brooks Entertainmentなる企業だった。同社および弁護士代理人は米国カリフォルニア州南部地区連邦裁判所に対して、『Infinite Warfare』にて知財権侵害がおこなわれているなどと訴えた。たとえば、Brooks Entertainmentが権利を保有する『Stock Picker』および『Save One Bank』なるゲームから、設定や主人公の性格などが無断で盗用されているというのだ。
裁判資料 を紐解いてみると、原告側は具体的には『Infinite Warfare』におけるロケーションや、主人公のキャラクター設定が似すぎていると主張しているようだ。たとえば、Brooks Entertainment側は、同社の創設者だというShon Brooks氏と、『Infinite Warfare』における主人公のSean Brooksが酷似していると指摘。名前はもとより、見た目や性格までそっくりだというのだ。また、ゲームの展開としても「Sean Brooksが戦う高級ショッピングモールでの戦闘シーンが自社作品に類似している」などと指摘。たしかに『Infinite Warfare』にはショッピングモールでの戦闘がある。こうした主張だけを読めば、一定の類似性は認められる気もしてくる。
ただ、『Infinite Warfare』の主人公はSean Brooksではない。Nick Reyes(ニック・レイエス)中尉である。Brooks Entertainmentの主張は、そもそも根本的に間違えているのだ。さらには、同作内でのショッピングモールの戦いの時点では、Sean Brooksは不在のはず。そして、訴えの文面自体もやや突飛。Brooks Entertainmentの具体的な作品名ではなく「Shonのこうした行動を、Seanが真似ている」というフォーマットの記述がメインになっている。無理矢理解釈するのなら、Brooks Entertainmentのゲームでは、Shon氏自身が主人公ということだろうか。つまり、「俺の存在自体をパクりやがったな」という主張とも解釈できる。こうなると、Brooks Entertainmentによる訴えが、かなり疑わしくなってくる。
Sean Brooksの姿
Image Credit: Call of Duty Wiki
そもそも、原告であるBrooks Entertainment自体がかなり謎多き企業だ。同社はShon Brooks氏なる人物が2002年に立ち上げた企業だという。事業内容としては、「財務およびエンターテインメント分野のコンサルタント業務を通じて、顧客が安全に金融帝国を築くための支援をしたり、若者たちが自分の運命をコントロールし成功した大人になるのを支援するテレビ番組をホストしたりしている」と記述されている。まったく要領を得ないものの、ビジネス上の成功支援とエンターテイメント事業の両輪で運営される企業ということだろう。
しかし、同社の実態はよくわからない。というのも、公式サイトらしきものが存在せず、Shon Brooks氏のSNSアカウントがちらほらと確認できるだけ。また、同社が権利をもつと主張する『Stock Picker』および『Save One Bank』なるゲームについても、PC/モバイル/コンソールにおいて筆者の観測範囲では存在が確認できなかった。Kotakuも同様に伝えている。そして、Shon Brooks氏と思しきSNSアカウントを覗いてみると、そこには笑顔の黒人男性の姿が(flickr )。また、上述の2作に関連すると見られる画像もあり、『Stock Picker』の方では同じ黒人男性が不敵な笑みを見せている。この人がShon Brooks氏なのだろうか。であれば、『Infinite Warfare』のSean Brooksとは人種から違うことになる。
Brooks Entertainmentの訴えでは、ほかにも「SeanもShonも好きに使えるミサイルをもっている」「Shonが無限の資産にアクセスできるように、Seanも無限の兵力などにアクセスできる(筆者の記憶では『Infinite Warfare』にそのような描写はない)」などの首を傾げる主張が見られる。また実をいうと、同社はなぜか『Infinite Warfare』と無関係のRockstar Gamesまでも、同訴状にて被告として訴えているのだ。Brooks Entertainmentの言い分として、同社はかつてActivisionとRockstar Games双方にプレゼンを実施したという。そこで紹介したゲームのアイデアが盗用されたのだから、どちらも悪いという主張のようだ。
なお、Brooks Entertainmentが「ゲームのアイデアを両社に伝えた証拠」として提出した資料の一部については、Rockstar Games向けにメールで送信された記録が確認できたと、後に裁判所側も認めている。ただし、同メールにまつわるそれ以降のやりとりは認められなかったとのこと。つまり、Brooks EntertainmentがRockstar Gamesに向け、勝手に送りつけただけとも考えられる。また、プレゼンやミーティングを実施したとのBrooks Entertainment側の主張にも疑問符が付くことになる。
【UPDATE 2022/8/10 2:40】
Rockstar Gamesに向けたメールについての記述を移動および調整
Brooks Entertainment側の間違いや論理破綻は、ほかにも枚挙にいとまがない。もちろん、こうした訴えがまかり通るはずもなかった。2022年1月にはActivision側弁護士が、Brooks Entertainment側に対して訴えの取下げを要求。もしも取り下げられなければ、連邦民事訴訟規則11条に基づいて制裁を要求するとの警告を与えた。同条項は「不適切な目的や証拠による裏付けなく、訴状などを提出した者には制裁を加える場合がある」との内容。ようするに、「いい加減な訴訟提起は罰する」という取り決めである。そして2022年3月には、Activision側が裁判所に対して、実際に制裁の申し立てを提出することとなった。
『Infinite Warfare』
そして現地時間7月12日に裁判所側は申し立てを承認。Brooks Entertainment側の訴えを退け、逆に同社に対して、Activision側が無駄にした経費や時間に対する賠償の支払いを命令するに至った。Brooks Entertainmentが起こしたのが「いい加減な訴訟」だったと裁判所にも認められてしまったわけだ。
また、裁判所側はこの手続きに際して、Brooks Entertainment側の訴えの杜撰さについて指摘。「Sean Brooksはショッピングモールでの戦闘に参加していない」「(一連の事実誤認は)裁判所側が1時間半ほど『Infinity Warfare』を遊んだだけでも気づいた」とバッサリ切り捨てている。Brooks Entertainmentおよび代理人弁護士は、裁判に負けて逆に賠償を命じられた上、「ゲームを実際に遊んだことがないだろう」とツッコミまで受けてしまったのだ。
Brooks Entertainment側が、なぜこのような無謀な訴訟を提起したかは不明だ。また、同社から公式な声明などは見当たらず、そもそもどこが公式な発信元なのかも判然としない。得体の知れない存在である。一方のActivisionは2021年7月より、ハラスメント問題に端を発する訴訟を起こされるなど、騒動の渦中にある。Brooks Entertainmentが同年10月に訴訟に踏み切ったのは、そうした状況に便乗する意図もあったのかもしれない。いずれにせよ、ついでとばかりに訴えられたRockstar Gamesは気の毒なことである。
なお本件については、先日注目を浴びた『Call of Duty: Warzone』におけるサモエドスキンデザイン盗作疑惑とは無関係である(関連記事 )。こちらについては、デザイン盗用を訴えたアーティストがActivisionと話し合っていることを報告。後にActivision側が海外メディアPolygon などに向けて、制作プロセスに間違いがあったと認め、謝罪する声明を送っている。
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からの記事と詳細 ( 「『Call of Duty』が俺のアイデアをパクった」とする謎訴訟が起きていた。証拠がめちゃくちゃで原告返り討ち - AUTOMATON )
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