「無罪と公訴棄却(裁判の打ち切り)を求める」「裁判所は『証拠』を調べた上で判断してもらいたい」
3月15日、広島高裁。2019年参院選を巡り、元法相・河井克行(61)(有罪確定)から買収資金を受領したとして公職選挙法違反(被買収)に問われた元広島市議・木戸経康(68)の控訴審第1回公判で、弁護人の田上剛(65)はそう主張した。
木戸を巡っては、東京地検特捜部検事が任意の取り調べで不起訴を示唆するなどした供述誘導疑惑が浮上した。田上が言う「証拠」とは、木戸が取り調べを隠し録音したデータのことだ。
「違法捜査」を訴える木戸側は1審・広島地裁にも録音データを証拠請求したが、採用を拒否された。木戸は被告人質問で「不起訴を示唆された」と述べ、昨年10月の1審判決は「不起訴を前提に取り調べた」と言及しつつ、客観証拠に基づき木戸を有罪としていた。
高裁も地裁に続いて請求を退け、田上は「裁判所は公判を通じて捜査を監視する『最後の
地裁と高裁が木戸側の証拠請求を拒否するまでの過程には、録音データの存在を把握した検察側の「方針転換」があった。
容疑者の供述調書は有罪立証の「核」となることが多く、検察側はこの裁判でも木戸の調書を地裁に証拠請求する姿勢を示していた。ところが、調書に任意性・信用性がないことを示すためとして木戸側がデータを開示すると、検察側は請求を回避し、木戸の「自白」は裁判の争点から外れてしまった。
あるベテラン刑事裁判官は「調書が証拠になっていない以上、録音データを調べる必要はない」とし、地裁・高裁の判断を妥当とみる。
その一方で、「捜査をチェックする」という裁判所の機能を重視する見地からの異論もある。別のベテラン裁判官は「不適切な取り調べが行われた可能性がある以上は、録音データを調べ、実態を明らかにする選択肢はあった」と語った。
過去には、刑事裁判で録音データが取り調べられた事例もある。衆院議員の小沢一郎(81)が11年に強制起訴された政治資金規正法違反事件では、小沢の関与を認めた元秘書の供述調書の任意性や信用性が問題化し、東京地裁は元秘書による隠し録音のデータを調べた。その結果、強制捜査も示唆していた検事の取り調べを「違法・不当だ」と指摘。調書の多くを証拠から排除し、小沢を無罪とした。
小沢の弁護人を務めた弁護士の河津博史(51)は、録音データを「門前払い」した広島地裁・高裁の判断について、「不適正な取り調べを裁判所が黙認しているようなものだ」と批判し、「裁判所は人権の守り手として、捜査を適正化させる役割を果たすべきだ」と語る。
これまで多くの政界事件や大規模な経済事件を摘発し、国民生活の基盤を脅かす不正と
09年に大阪地検特捜部が手がけた郵便不正事件では、密室の取り調べにおける供述の誘導や、証拠品の改ざんが相次いで発覚し、一大不祥事に発展した。その後の検察改革を提言した「検察の在り方検討会議」で委員を務めた元東京高裁部総括判事・原田国男(79)は、「改革当初は組織内で『再発防止』が強く意識されたが、10年以上が経過し、抑止力が働かなくなってきている」と実感を語る。
法曹界では録音・録画(可視化)の義務化を任意の事情聴取にも拡大するよう求める声が強まっており、日本弁護士連合会は4月から捜査機関の事情聴取に弁護士の「立ち会い」を促す取り組みを始めた。原田は「不適正な事案が続けば改革で積み上げてきた信用は失われ、取り調べを巡る制度改正も現実味を帯びる」と警鐘を鳴らす。
密室で行われる取り調べの「適正」はどう図られるのか――。今回の疑惑は、再びその問いを刑事司法に投げかけている。
(敬称、呼称略、おわり。この連載は供述誘導疑惑取材班が担当しました)
からの記事と詳細 ( 録音されていた「供述誘導」、裁判所は調べず…検察が供述調書の証拠請求を回避 - 読売新聞オンライン )
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