朝は配偶者に見送られながら家を出て、職場へ。終業後に向かうのは、恋人との待ち合わせ場所。「早めにクリスマスを祝おう」。そう言って、誘い出した。
夜道を横並びで歩き、そのままラブホ街に溶け込む。誰にも邪魔されることのない2人きりの世界に旅立っていく。家を出た瞬間から後を追い続け、カメラを向けている人物がいることに気づかずにーー。
「ホテルに出入りしたり、キスしたりする瞬間を撮れたときは、よし!と気持ちがハイになります」
こう語るのは、半年で約100件の案件をこなすこともあるという探偵だ。彼らが撮影する写真は、離婚裁判で重要な証拠になることもある。街角で繰り広げられる「刹那の恋」の実録をお送りする。
●制限緩和、不倫カップルが街に増殖
堂々と逢瀬を重ねる不倫カップルも少なくないという(west / PIXTA)
探偵たちにとって、繁忙期となるのが12月。年末年始の会えない日々の寂しさを埋めるように、デートするカップルも多そうだ。
「不倫をする人たちは、隙を見ては毎日会っていますからね。クリスマスイブや当日に会うことは少なく、日をズラす人が多いという印象です。子どもがいる場合は、早めの『クリスマス祝い』をすることもありますよ」
コロナ禍の2020〜2021年は、外出自粛を余儀なくされたこともあり、不倫も「自粛」モードに。その影響で依頼は減り、人員削減に踏み切った事務所もあるという。しかし、この1年は「増えているように感じる」と語る。
取材に応じた探偵が引き受ける案件の約8割は浮気調査。配偶者が不倫をしているという確証はないものの「白黒ハッキリさせたい」という依頼者もいるが、夫婦仲が円満であることはほとんどない。多くは、離婚を言い出されていたり、夫婦仲がよくなかったりする人たちだ。
「離婚を言い出されているようなケースは、依頼者側が甘く見られているのか、(調査)対象者も不倫を隠そうとしていないことが多いように感じています」
●カメラを向けても気づかない、2人の世界
配偶者以外の人と肉体関係をもつ「不貞行為」は、民法に規定されている離婚事由のひとつだ。探偵が撮影した写真などは、裁判で「不貞行為があった」と主張するための証拠としても使われる。
もっとも重要なのは、ホテルに出入りする写真や映像だ。ラブホテルに向かった場合は、部屋に入った姿を確認できなくても、目的が明確なので敷地内に入ったのみで「黒」と判定できるという。
「王道」のラブホ街で密会する男女は少なくないという(那須野 / PIXTA)
しかし、対象者が逢瀬を楽しむ場所は、さまざまだ。
「ビジネスホテルに入るカップルもいます。このような場合は『商談をしていた』などの言い逃れもできてしまうんですよね」
そんな時は異性の探偵と「客」のカップルを装ってホテルに入り、チェックイン。「客」として入らなければ、不法侵入にあたる可能性もあるためだ。調査対象者がいる部屋のフロアまで尾行する。
「対象者にカメラを向けても、意外と気づかないものですよ」と、探偵は余裕の表情を浮かべる。これまで、不倫カップルに堂々とカメラを向けても、気づかれたことはないという。対象者は「2人の世界」に酔いしれ、不倫相手しかみえていないのだろうか。
そんな探偵たちでも、困難を感じるシチュエーションがある。
「ホテルに行かずに、車ですべてを済ませる人たちがいるんですよ。人気(ひとけ)のないところに車を停車し、何時間もそのまま。後部座席にいたり、車の窓がスモークガラスだったりすると、中の様子も見えません。でも、こちらが近づいたらバレる。絶対(不倫)しているのに!と悔しさを感じます」
ドライブレコーダーに映像や音声が残っていることもある。しかし、音声機能を止められた場合は、なんの役にも立たない。また、音だけでは証拠能力は低いのだという。探偵が車内に録音機を仕込むわけにもいかないため、依頼者の協力が不可欠だ。
●「全人類が信じられなくなりました」
取材に応じた探偵は、数々の「密会」を見ては、カメラにおさめてきた。不倫に対しては、どのような感情を抱いているのだろうか。
「新人だったころは、尾行や張り込みをしながら『どうか不倫しないでくれー』と願うような気持ちもありました」
しかし、いつの日からか「黒」とわかった瞬間に、気持ちが昂揚し、達成感を感じるようになってしまったという。
「単純に、早く家に帰れますしね。案件によっては、40時間ぶっ続けで調査するということもありますから。それに(調べる期間は限られているので)白を『白』と言うのも難しいんですよ。納得せずに何度も依頼する人もいます」
依頼者に男女差はほぼないという。性別を問わず、不倫をする人はしているということだ。そんな現状について、探偵は淡々と語る。「全人類が信じられなくなりますよ」と。
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