ロシアによる侵攻でウクライナの文化財が大きな被害を受けている。国連教育科学文化機関(ユネスコ)によると、5月30日時点で少なくとも139カ所の文化財が破壊された。6月4日には東部ドネツク州で歴史的な修道院の僧庵が砲撃で炎上した。文化財を狙った攻撃は国際法に違反する。ロシアによる戦争犯罪の証拠にしようと、文化財の被害をSNS(交流サイト)や衛星画像で確認したり、デジタルデータとして保護したりする取り組みが始まっている。
ウクライナ文化情報政策省のサイトには市民からの被害報告が続々と寄せられている。「爆撃でファサードや窓が破壊された歴史的建造物」「砲撃で炎上する木造教会」といった掲載写真は、SNSからの引用やスマホで市民が撮影したものだ。政府はこれらを戦争犯罪の証拠として、ロシアの刑事責任を追及しようとしている。
ただこれらの情報には真偽が確かめられていないものもある。ユネスコはウクライナ政府の発表を衛星画像などで調査し、被害の確認がとれた文化財を暫定リストとしてまとめている。ユネスコが発表した文化財139カ所のうち、位置情報のわかった134カ所を地図上に示した。
炎上する修道院
ウクライナのゼレンスキー大統領は4日、東部ドネツク州のスビャトゴルスク大修道院の木造の僧庵が炎上する映像を通信アプリ「テレグラム」に投稿した。同氏は投稿で、「大修道院の敷地内に軍事目標がなく、子ども60人を含む300人が避難していると知っていながら砲撃した」と非難。「ロシアはユネスコに居場所はない」と訴えた。
6月19日から30日にロシアで開催が予定されていた世界遺産委員会の会合は、ウクライナ侵攻を受けて無期限延期となっている。
破壊されたコンサート会場
コンサート会場などとして利用されていたキーウ近郊イルピンの「文化の家」(1952~54年建設)。破壊された様子をウクライナで活動する人気ロックバンドのボーカリスト、ユーリー・ベレス氏がフェイスブックに投稿した。
砲撃された旧裁判所
砲撃で炎上するチェルニヒウの旧地方裁判所(1904年建造)。2015年のグーグルストリートビューには家族らしき人たちが歩く様子が写っている。
教会付近で爆発
ウクライナのネットメディアがツイッターに投稿した映像には、ハリコフ州の教会のすぐ横で爆発が起きる様子が映っていた(ツイッターアカウント@TpyxaNewsから)。ウクライナ文化情報政策省によると、1880年ごろの建造物で、窓、ドア、屋根などが損傷した。
焼け落ちた歴史的建造物
19世紀後半に建てられたマリウポリの歴史的建造物。侵攻前まではバーなどが入居する商業ビルとして使われていた。バーのインスタグラムの写真には、在りし日のにぎわいが写っていた。
ウクライナで文化資産の破壊が相次ぐなか、価値ある資産をデジタル領域で守って支援しようとする市民の動きが活発になっている。ウクライナの文化資産に関するウェブページやデジタルコンテンツをアーカイブして保存するプロジェクトSUCHO (Saving Ukrainian Cultural Heritage Online)は3月の発足以降、4500以上のウェブサイトの合計で40テラ(テラは1兆)バイト以上のデータを集めてきた。
3次元(3D)スキャンや撮影を通じて美術品などの文化資産をデジタル化する動きはロシアによる侵攻以前から盛んで、SUCHOはこうした既存データを改ざんや破壊から保護することを主目的にする。設立者の一人のセバスチャン・マイストロビッチ氏は「ロシア軍は略奪行為もおこなっている」と指摘。「ある作品がウクライナの機関に所属していたことを証明するには、図書館や美術館の目録のメタデータを保護することが重要だ」と説明する。
SUCHOの他にも、ウクライナの全てのウェブサイトを保護しようとする取り組みや、建築物を3Dスキャンしてデータを保存しようとする取り組みなど、オンライン空間での文化資産保護を巡っては多様な支援活動が進行中だ。例えば、6月上旬に火災が起きたスビャトゴルスク大修道院の3Dイメージが掲載されたウェブサイトなどのアーカイブも作成されている。
360度写真を使ったバーチャルツアーを制作していた写真家のミコラ・オメルチェンコ氏は侵攻後、ウクライナ文化情報政策省と破壊された遺産や文化的な場所を記録する取り組みを始めた。「ロシアが私たちにどれほどの苦しみをもたらしたかを世界に示すために自分の経験を生かした」と言う。制作した数は今までに数十枚程度。軍から許可を得るのが難しい都市や場所もある中、少しずつ進めている。魚眼レンズやドローンなど、場所によって機材を使い分けている。
こうしたデータは復興の一助になる可能性もある。2019年に火災が発生し一部が焼失したパリのノートルダム大聖堂では、過去に記録された3Dデータなどをもとに修復する試みが進む。フランス文化省と共同で修復プロジェクトを進める、フランス国立科学研究センターのリビオ・ド・ルカ氏は「普通の写真から3D形状を復元するといった技術が発展している」と、データを残す意義を指摘する。
一方で、「複雑な建物の修復には、材料や音響的挙動、歴史的な経緯など、データ以外の知識も重要だ」と説明する。修復は170人以上の専門家が連携する学際的な取り組みになっており、文化資産に関するデータを復元に活用できる形で集積し共有する知見を磨いているという。ルカ氏は「今後数年のうちに、私たちの手法を一般化して、文化財向けのツールを提供できるだろう」と話す。
淡嶋健人、宗像藍子、寺澤将幸、山本博文、髙野壮一、堺俊平、
斎藤一美、黄田和宏
からの記事と詳細 ( ウクライナの文化財を守れ! ロシアの破壊行為、市民が証拠集め - 日本経済新聞 )
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