東京五輪への出場を懸けた大事な大会に挑む若きボクサーたち。
その中に、注目されている2人の選手がいる。世界王者・井上尚弥をうならせた“アマのモンスター”こと堤駿斗(20=東洋大学)と、アマ年間最優秀選手の岡澤セオン(24=鹿児島スポーツ協会)だ。
2月上旬に東京都内のトレーニングセンターを訪ねると、昨年11月の全日本選手権で優勝した他の4人の選手とともに、2人がトレーニングに取り組んでいた。
指導はウズベキスタンのウラジミール・シンコーチがしている。
東京五輪のボクシング競技は男子8階級で実施され、日本はフライ級からライトヘビー級までの6階級で各1人ずつの出場を目指す。
東京五輪には少なくとも4人に開催国枠が確保されるが、残り2人はアジア・オセアニア予選(3月ヨルダン)、世界最終予選(5月パリ)で戦い、勝ち取らなければならない。
3月3日からはじまるアジア・オセアニア予選を前に、2人に独占インタビューした。
アマのモンスター 堤駿斗
堤は今もっとも期待されている若手選手だ。アマのモンスターと呼ばれ、4年前の世界ユース選手権で日本人で初めて優勝した。
現WBAスーパー・IBF世界バンタム級王者の井上尚弥とスパーリングを頻繁に行い、「日本で一番反応のいい選手」と高く評価されている。
距離感では負けない
ーーーどうですか今の調子は。
堤:アジア・オセアニア予選がいよいよで試合モードに入っています。
ーーー減量はいかがでしょうか。
堤:減量が一番の課題ではあるので、前もって準備しています。
ーーー久しぶりの海外での試合です。海外選手との試合のブランクは気になりませんか。
堤:昨年の5月以来ですかね。海外で合宿を積み重ねていますし、各国のトップレベルの選手と練習していたのでブランクは感じません。
ーーーカザフスタンでの合宿ですね。海外の選手と戦ってみてどうでしたか。
堤:技術的には戦えます。唯一劣っている点があるとすれば、体の強さですね。
ーーーなるほど。堤選手の強みを教えてください。
堤:僕は「距離感」を大切にして戦っています。これは、海外の選手に勝つ為に重要なことで、優っていると思います。
ーーーこれから予選が始まりますが、アジアのライバルについて思うことはありますか。
堤:僕の階級には世界選手権の金メダリスト・銅メダリストがいます。
その中でもしっかり枠を勝ち取り、アジア予選で金メダルを獲って、いい勝ち方で五輪に繋げたいです。
ーーーアジア予選で勝ち抜けば、東京五輪でのメダルにも近づきますね。
堤:はい、東京五輪で金メダルが現実的なものになってくると思います。
井上尚弥とのスパーリング
ーーー話が変わりますが、世界王者の井上尚弥選手と昨年スパーリングをしたと聞きました。手を合わせてみて、どうでしたか。
堤:見ているのと対峙した時のプレッシャーが全然違っていました。スパーリングでプレッシャーを感じたのは初めてで、とても貴重な経験になりました。
ーーー昨年11月の井上選手とドネア選手の試合は観戦しましたか。
堤:はい、会場で見ました。観客が2万人以上もいて、今まで感じたことのない熱気でした。この中で井上選手は戦うんだ、すごいなと。
ドネア選手の粘り強さもすごかったです。あの井上選手でも苦戦するんだと少し驚きました。
そんな中でもしっかり勝ち切ったところは、さすがだと思いました。
勝負は何が起こるかわからないし、何が起きても冷静に粘り強く戦うことの大切さを学びました。
負けずに終わることが目標
ーーーいい経験でしたね。東京五輪への想いはありますか。
堤:五輪が東京で開催されるというのは、これ以上ない注目が集まります。
オリンピックは初めてですし、これまでの大会とは違う思いがあります。
そこに自分のピークを持っていって、悔いのない戦いにしたいです。
ーーー五輪後についてはどう考えていますか。
堤:小さい頃からプロで世界チャンピオンになることが目標だったのでプロも視野に入れています。でも後のことはオリンピックを終えてから考えます。
ーーーなるほど。まずは、オリンピックですね。
堤:はい。次のアジア・オセアニア予選で金メダルを獲って、東京五輪で金メダルを獲る。五輪まで負けずに終わることが目標です。
急成長の岡澤セオン
もう一人のメダリスト候補はウェルター級の岡澤セオンだ。
「チョコレート侍」と親しまれ、本人も呼び名を気に入っている。父親はガーナ人、母親は日本人だ。
昨年9月の世界選手権では出場した日本人選手の中で、最高となるベスト8に輝いた。
また、10月に行われたプレオリンピック大会では優勝を果たし、昨年のアマの年間最優秀にも輝いている。
ここ一年で急激な成長を遂げている選手だ。
世界でもトップで戦える
ーーーまずは年間最優秀おめでとうございます。
岡澤:ありがとうございます。
ーーー表彰式の時、隣に村田諒太選手(34=帝拳)もいて、「いろいろ感じることがあった」と言ったそうですね。
岡澤:やはり金メダルを獲っている、偉大な方だなあと思いました。自分がいざそこを目指すとなったときに、どれだけすごいことか分かります。
ーーー岡澤選手は急激に成長していますよね。初めて国際大会に出たのはいつですか。
岡澤:去年4月のアジア選手権が初めてで、準優勝でした。
ーーー海外の選手と戦ってみてどうでしたか。
岡澤:距離の取り方や前の手の駆け引きは、世界でもトップで戦えると思っています。
でも、一つ一つのパンチのインパクトには、まだ課題があります。
強いパンチを当てる技術は、これから修正していかなければいけません。それができたら、もっと上を狙えると思っています。
ーーー昨秋の世界選手権に初出場でベスト8。そこまで行けると思っていましたか。
岡澤:いろいろな方に「国際大会に向いている」と言われてました。なので、国際大会に出たら、絶対活躍してやるという気持ちがありました。
海外のアマチュアボクシングの試合を見るのはすごく好きだったので、とにかくワクワクしてました。
ずっとYouTubeで見ていた選手たちと、同じ土俵で試合ができるということが楽しくて仕方なかったですね。
海外の選手との違い
ーーーこの間もカザフスタンで合宿をされていました。世界のトップレベルの選手たちと実際に手を合わせてみて、どうでしたか。
岡澤:駆け引きでは負けていませんでした。キューバの選手に関しては、反応スピードが速いと感じました。
カザフスタンの選手は、体がめちゃめちゃ強かったです。
自分は大学を卒業して鹿児島に行ってから、フィジカルがすごく伸びてきたと思ってました。でも、もっと伸ばさないと。
ーーーこれから予選が始まります。それまでに強化したいポイントはありますか。
岡澤:強いパンチを当てる技術、体を常に安定させた状態で今のアウトボクシングをする、ということですね。
フィジカルを鍛えていけば、金メダルも見えてくるのではないかと思ってます。
ーーー予選でライバルになる選手はいますか。
岡澤:アジア選手権で負けたウズベキスタンの選手と、この前戦ったカザフスタンの選手は強かったです。
ウズベキスタンの選手に負けたときはすごく悔しくて。
自分より背が小さいオーソドックス(右構え)に負けるイメージはなくて自信もありました。
その相手に負けたというのはめちゃくちゃ悔しいので、どうやったら勝てるのか、すごく考えながらやっています。
今回、その選手を倒してチャンピオンになれたらと思っています。
東京五輪への想い
ーーーいよいよ五輪に向けて予選が始まりますが、東京五輪への想いはありますか。
岡澤:中央大学の先輩である桜井孝雄さんは、1964年の東京五輪で金メダルに輝いています。
僕も現役時代に東京五輪があり、手がかかるところまで来ているので、金メダルを獲りたいです。
これまで順風満帆ではなかったですが、いろいろな人のおかげでボクシングを続けてこられました。
ーーー自分が変わるきっかけのようなものがあったのですか。
岡澤:鹿児島に荒竹一真という無敗の高校生がいて、その子を初めて見た時に衝撃を受けました。
高校生でボクシングとこんなに向き合っている子がいるのかと、すごくショックだったのです。
それで、今までの自分がすごく恥ずかしくなりました。そこからボクシングに対する姿勢が変わって、練習量も増えました。
特にフィジカル系の練習をやるようになって、体がすごく変わってきたというのが、結果につながっています。
ーーー自信になったのでしょうか。
岡澤:フィジカルで当たり負けしないという自信や安心感が生まれました。あとは、頭でイメージしたことに体がついて来るようになりましたね。
体を動かすための筋トレを重視しているので、イメージした動きをリングの上で出せるようになってきました。
アマチュアボクシングを広めたい
ーーー五輪で金メダルという目標があると思いますが、その先も含めて、今後の目標はありますか。
岡澤:僕はアマチュアボクシングというスポーツが評価されていないと思ってます。
「プロに行かないのですか」という質問を受けますが、それが何よりも悔しいです。
全く別競技だと思うし、アマチュアボクシングにしかないすごさ、面白さがあるのです。
スポーツとしてもっと商品価値もあるので、ずっとアマチュアで、このスポーツを世の中に広められるような形が一番幸せだと思います。
東京五輪は世の中の人にアマチュアボクシングというスポーツを広める大きなチャンスです。
僕はまだキャリアが短いので、その次のオリンピック、もしかしたらその次も狙えるかもしれません。
そうやって何回も続けて五輪に出て、海外で結果を残すことで、このスポーツの発展に関わっていけたらと思っています。
アジア・オセアニア予選に向けて練習に励む選手達に話を聞いたが、目標は「東京五輪で金メダル」と頼もしい話が聞けた。
練習を見ていても、短期集中型で量より質のメニューをこなしていた。
練習後には談笑する様子も見られ、選手たちの仲の良さが伺えた。
リラックスの中にも緊張感を持っていて、予選までの日々を良い形で過ごせているようだ。
半年を切った東京五輪。本戦への出場を勝ち取り、五輪での金メダル獲得に期待したい。
【この記事は、Yahoo!ニュース個人の企画支援記事です。オーサーが発案した企画について、編集部が一定の基準に基づく審査の上、取材費などを負担しているものです。この活動は個人の発信者をサポート・応援する目的で行っています。】
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February 29, 2020 at 06:00PM
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