夫婦円満な生活を送るためにも、できれば事前にトラブルの芽は摘んでおきたいものです。そこで、年間100件以上離婚・男女問題の相談を受けている中村剛弁護士による「弁護士が教える!幸せな結婚&離婚」をお届けします。
連載の第28回は「弁護士が教える追及テクニック」です。パートナーの不倫を察知したら、まずどのような行動をとるべきなのか。中村弁護士が今まで見た多数の事例から、やるべきことを教えてもらいました。
●不貞行為の疑惑がわいたらまずは証拠集め
様々なきっかけから、「もしかしたら、相手が不貞行為を行っているかも?」と思うことが出てきたとします。その際にまず、すべきことは、証拠集めです。
証拠集めの手段は様々ありますが、相手の財布の中や、スマートフォンのメッセージの履歴、車のカーナビ履歴等を調べることをはじめ、場合によっては探偵に依頼して証拠集めをするときもあります。
ポイントは、「相手方に気づかれないうちにする」ことです。こちらが疑っていることを相手方に気づかれてしまったら、警戒されて、証拠集めのハードルは格段に上がります。
●相手に「浮気してる?」と聞くのは絶対にNG!
たまに、インターネット記事などで、「相手に『浮気してる?』と聞いて●●と反応したらクロ!」というような記事を見かけます。しかし、単にネタとして楽しむのであればともかく、相手に対してきちんと追及したい場合には、証拠が不十分な中で相手方に「浮気してる?」などという直接的な質問をぶつけては絶対にいけません。
上記のとおり、証拠集めは、相手方に疑われる前にする必要があります。「浮気してる?」なんて聞いてしまったら、こっちが疑っていることがバレバレで、本当に浮気をしていた場合、その後、警戒されてしまって証拠を集めるのが困難になってしまうでしょう。
一方、本当に浮気していなかったとした場合、相手方としては、「浮気していると疑われた」というだけで、自分は信頼されていないんだと感じ、相当不愉快です。場合によっては、本当に浮気をしていなかったにもかかわらず、「浮気してる?」と聞いたことが原因で、別れに至ってしまうこともありえます。
「浮気してる?」などと聞くのは、単に自分が満足したいだけの行為であって、浮気を追及するためにも、互いの信頼関係を維持するためにも、マイナスにしかなりません。そのようなことは絶対にやめましょう。
●証拠集めをしてクロだとわかったら
証拠集めをしたところで、クロだとわかったとしましょう。その決定的な証拠を相手に突き付ける…としたいところですが、少し待ってください。まずは、その前に、一度弁護士に相談することをおすすめします(なお、上記の証拠集めの段階でも、探偵に依頼しようとする場合には、その前に弁護士に相談することをおすすめします)。
理由は3つあります。
1つ目の理由
集めた証拠が実は決定的ではなかったというケースがあります。よくあるのは、録音やLINEなどのメッセージのやりとりで、一般的に見れば「明らかにクロ」と思えるようなケースでも、実際の裁判では証拠不十分となってしまうケースがよくあります。その辺りの見極めを弁護士に見せて確認しましょう。
2つ目の理由
場合によっては、不貞行為の証拠を突き付けて離婚をすることで、かえって損になるケースがあります。具体的には、不貞行為をされたほうが多くの財産を有していた場合です。
たとえば、不貞行為をした方の名義の預貯金が200万円、不貞行為をされた方の名義の預貯金が1000万円あったとしましょう。不貞行為をされた方は、慰謝料を200万円請求できたとしても、財産分与で400万円渡さなければなりません。そうすると、差し引き200万円のマイナスとなってしまいます。
不貞行為を見つけて相手方に突き付けて離婚したのに、こちらが逆に200万円支払う結果になってしまったというケースもありうるのです。そうなっては目も当てられません。そのような見極めをするためにも、証拠を突き付ける前に、一度弁護士にご相談ください。
3つ目の理由
証拠を突きつけたあとは、もう後戻りができないので、先に起こりうることをきちんと想定しておく必要があります。たまに、「相手に不貞行為をやめさせるために、不貞行為の証拠を突き付けた。自分としてはまだ別れたくない」という方がいますが、不貞行為の証拠を突き付けた場合、相手方が反省して不貞行為をやめてくれるとは限らず、かえって相手方が開き直って、離婚を決意してしまうこともあります。
自分としては、不貞行為をやめさせたかっただけで、別れたくはなかったのに…という考えだったとしても、時すでに遅し。もう離婚に一直線になってしまいます。そのような見通しを、あらかじめきちんと立てて置くことが必要です。
●いざ証拠を突き付けたときに行うこと
さて、以上を経たうえで、いざ証拠を突き付けることになりました。その際に、おすすめするのは、「書面にしておくこと」です。その書面に書くといい内容は、以下の2つです。
(1)不貞行為の事実を認めさせる(不貞相手の氏名、不貞行為の期間や頻度なども明記できればより良い) (2)金額を明記したうえで慰謝料の支払いを約束させる
最低限、(1)は押さえておいて、可能であれば(2)も書いておきましょう。こうすることによって、あとから争われることを防ぐことができます。
簡単な内容であっても、内容が明確であれば問題ありません。また、書式は特になく、手書きであっても、印字したものでも構いません。上記(1)(2)の内容と、日付と本人の署名(可能なら住所も)があれば、十分です。
●慰謝料額をいくらにしてもいいのか?
では、金額を明記した慰謝料を支払う約束をする文言を書いたとして、いくらと書いてもいいのでしょうか。そうではありません。あまり高額な金額を書きすぎると、公序良俗違反、心裡留保、強迫取消しなどにより、無効となってしまったり、取り消されたりすることがあるのです。
公序良俗違反(民法90条)とは、公の秩序に反するような合意ということです。また、心裡留保(民法93条)とは、意思表示をしたものが、本当はそのつもりがなかったことを相手方が知っていた(または知ることができた)場合に、無効とするものです。
冗談で「100万円あげる」といったようなケースが典型例です。このような約束も原則として有効ですが、相手方が冗談だと知っていた、または知ることができた場合は無効となります。
さらに、強迫取消し(民法96条)とは、意思表示が強迫によってされた場合に、取消しをすることができるものです。
●過去の裁判例は?
無効とされたケース
たとえば、不貞行為をしたら5000万円を支払うという旨の合意をした契約書に基づき、不貞行為がおこなわれたから5000万円を請求したというケースでは、5000万円は高額に過ぎ、公序良俗に照らして無効であるとされました(東京地判平成17年11月17日)。
また、「慰謝料10,000,000円を3年以内にお支払いすることを約束いたします」と記載された念書に基づいて請求されたケースでは、心裡留保により無効だとされました(東京地判平成20年6月17日)。
さらに、800万円で合意したケースで、心裡留保により無効ということになったり(東京地判平成25年10月30日)。600万円の合意について、深夜、探偵業者と4人で乗り込んでサインさせたという事情の下で強迫取消しが認められたりしています(東京地判平成29年3月15日)。
有効とされたケース
一方、270万円を支払う旨の合意については、心裡留保とはならず有効とされ(東京地判平成30年8月31日)、500万円の合意では有効とされている裁判例があります(東京地判平成29年9月27日、東京地判令和元年7月23日)。
さらに、不貞行為1回あたり100万円という合意がされ、6回やったので計600万円の請求がされた事案では、有効とされています(東京地判令和3年10月28日)。
これらの裁判例の傾向からすると、800万円を超えるような事案では、無効となる可能性が高く、300万円前後なら有効で、500~600万円辺りが有効か無効かの境目になりそうです。そのため、少なくともこれを超える金額は避けておいたほうが無難でしょう。
●不貞行為がバレた側はどうする?
逆に、不貞行為がバレてしまったほうとしては、絶対にその場で念書を書いてはいけません。一度、合意書が交わされてしまうと、上記のとおり、500~600万円を超えるような金額が記載されない限り、有効となってしまう可能性が高いです。
そうすると、あとから覆すことのハードルはかなり上がります。そのため、不貞行為が発覚して焦った状態でも、安易に署名捺印しないように気を付けましょう。そして、必ず署名する前に弁護士にご相談ください。
(中村剛弁護士の連載コラム「弁護士が教える!幸せな結婚&離婚」。この連載では、結婚を控えている人や離婚を考えている人に、揉めないための対策や知っておいて損はない知識をお届けします。)
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