慰安婦問題への旧日本軍の関与を認め、おわびと反省の気持ちを表した「河野談話」の発表から4日で30年。内容を裏付ける学術研究は進み、歴代政権は継承を明言する。だが、慰安婦に対する強制的な扱いに疑問を挟み、国の責任を棚上げするような主張が、自民党や保守層を中心に根強く残る。調査を続ける専門家は「女性を傷付けたという事実の否定は許されない」と語り、当時約束した研究、教育の強化を求める。(森田真奈子)
◆「研究や教育を通じて永く記憶にとどめる」約束はどこへ
河野談話は1993年、宮沢喜一内閣の河野洋平官房長官が発表した。軍の広範な関わりと、慰安婦の募集や移送などが「甘言、強圧によるなど総じて本人たちの意思に反して行われた」と認め、「多数の女性の名誉と尊厳を深く傷つけた問題」と明記。強制連行についても、河野氏は記者会見で認識を問われ、過去にあったということで「結構」と答えている。
河野談話 1991年8月に韓国で元慰安婦の女性が初めて名乗り出た後、日本政府は91年12月から関係資料236点の調査や、元慰安婦や元軍人、慰安所経営者らに聞き取りを行った。調査の結果として93年8月、当時の河野洋平官房長官が談話を発表。慰安所の設置や管理、慰安婦の移送に軍が関与したことや、慰安所での生活が強制的な状況下での痛ましいものだったことなどを認め、おわびと反省を表明した。
松野博一官房長官は3日の会見で、河野談話を巡る政府の姿勢を「全体として継承している」と説明した。この30年で16の政権が生まれたが、談話は一貫して引き継がれている。
ただ、見直しを図ろうとする動きは収まっていない。大きなきっかけになったのは2007年、安倍晋三首相(当時)による「官憲が人さらいのごとく連れて行く、強制性はなかった」という国会答弁。保守層は勢いづき、第2次安倍政権下では自民党の検討委員会が14年、朝日新聞による関連記事の一部取り消しを受けて「強制連行の事実や性的虐待は否定された」と決議した。民間でも「慰安婦は新聞による
長く慰安婦問題を研究する関東学院大の林博史教授(現代史)は「逃げられない環境で性的行為を強いられたことが問題で、『連行時の暴力がなければ強制でない』ということになるはずがない」と苦言を呈す。
談話発表後、国立公文書館などで保存されていた500点以上の資料が見つかり、慰安所が軍の公式施設だったことを示す「野戦酒保規程」の存在も判明した。元慰安婦が原告の訴訟でも、1999年の東京地裁が「殴る蹴るなどの制裁を加えられ、軍人の相手を続けざるを得なかった」と認定するなど、談話を補強する事実は積み上がっている。
林氏は、談話で「歴史研究や教育を通じて永く記憶にとどめる」としながら、実体が伴っていないことを問題視。教科書の記述も大きく減り、「約束が全く守られていない」と憤る。
談話発表から30年がたち、慰安婦問題の風化の懸念は強い。林氏は「経済格差や権力格差を利用した性売買は、現代でも続いている。人権侵害を起こさない社会にするため、教育や研究を国がしていくべきだ」と訴えた。
◆関係する国内外の公文書をネットで公開へ
民間団体「女たちの戦争と平和資料館(wam)」(東京都新宿区)は4日から、河野談話発表30年に合わせ、政府が談話に向けて調べた公文書や、発表後に見つかった国内外の公文書の計約1700点を閲覧できるインターネットのサイトを開設する。
公開されるのは、旧日本軍による慰安所の設置や経営に関する記録、米軍側の記録、戦後の戦犯裁判資料などの公文書や画像。発見の経緯や関連論文などの情報も盛り込んだ。省庁別や慰安所のあった地域などの分類から、見たい文書を検索できる機能もある。
wamの渡辺美奈さんは「文書は日本軍の性暴力がアジア太平洋に広く存在したことを示している。軍が慰安所を設置し、組織的に管理や運営をしていた事実は消せない」と話した。
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