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Monday, July 3, 2023

背景重力波の証拠が得られたか 15年に渡るパルサーの観測が実を結ぶ - sorae 宇宙へのポータルサイト

北米ナノヘルツ重力波観測所(NANOGrav:North American Nanohertz Observatory for Gravitational Waves)に参加する米国・カナダの190名以上の研究者で構成されたNANOGravコラボレーションは6月28日、周波数が非常に低く、宇宙のあらゆる方向から伝わる重力波である「背景重力波(Gravitational Wave Background)」の証拠が得られたとする研究成果を発表しました。

【▲ 背景重力波の証拠が得られたとするNANOGravコラボレーションの研究成果のイメージ図(Credit: NANOGrav collaboration; Aurore Simonet)】

【▲ 背景重力波の証拠が得られたとするNANOGravコラボレーションの研究成果のイメージ図(Credit: NANOGrav collaboration; Aurore Simonet)】

時空間の歪みを遠くまで波のように伝える重力波は、ブラックホールなど質量の大きな天体が運動することで生じると考えられています。2015年以降、アメリカの「LIGO」や欧州の「Virgo」といった重力波望遠鏡の観測によって、比較的軽い恒星質量ブラックホール(質量は太陽の数倍~数十倍、超新星爆発で誕生すると考えられている)どうしの合体などにともなって放出されたとみられる、宇宙の特定の方向から伝わる重力波が何度も検出されてきました。

関連:最新の「重力波イベント」カタログ公開、初検出から6年で90個に到達(2021年11月11日)

いっぽう、超大質量ブラックホール(質量は太陽の数十万~数十億倍以上、様々な銀河の中心にあると考えられている)どうしの連星が合体する前に放出されるような低い周波数の重力波は、地球上の検出器では捉えることができません。たとえば欧州宇宙機関(ESA)は2035年の打ち上げを目指して、複数の宇宙機を連携させることでより低い周波数の重力波の検出を目指す宇宙重力波望遠鏡「LISA」の開発を進めています。

今回成果を発表したNANOGravコラボレーションは、グリーンバンク天文台やアレシボ天文台の電波望遠鏡、カール・ジャンスキー超大型干渉電波望遠鏡群(VLA)で取得した観測データをもとに、中性子星の一種「パルサー」を利用した「パルサータイミング法(パルサータイミングアレイ)」と呼ばれる手法で低周波重力波が存在する証拠の検出を試みてきました。NANOGravの名称に含まれる“ナノヘルツ重力波”は、数年周期という低い周波数の重力波を示しています。

中性子星は太陽よりも重い大質量星が超新星爆発を起こした後に残される高密度の天体であり、パルサーはそのなかでも規則正しいパルス状の可視光線や電波が観測される“天然の発振器”と言える天体です。パルス状の信号が観測されるのは、パルサーからビーム状に放射されている電磁波の向きが自転とともに変化しているからだと考えられています。こうしたパルサーが重力の影響を受けると、パルス信号が観測されるタイミングにズレが生じることがあります。パルサータイミング法はこのズレを検出して観測を行う手法であり、これまでにパルサーを公転する太陽系外惑星の発見などをもたらしてきました。

【▲ NANOGravコラボレーションによる今回の研究成果を解説した動画(英語)】
(Credit: National Science Foundation)

NANOGravコラボレーションによると、68個のミリ秒パルサー(1秒間に数百回という高速で自転するパルサー)を対象とした15年分の観測データを分析したところ、ゆっくりと波打ちながら天の川銀河を通過する、数年~数十年周期で振動する低周波重力波の存在を示す証拠が得られました。この重力波は特定の超大質量ブラックホールのペアから放出されたものというわけではなく、複数の発生源から放出された重力波が重ね合わさったものであり、あらゆる方向から伝わってくる背景重力波だとみられています。アメリカ航空宇宙局(NASA)などでは「パーティーに参加している大勢の声を一人ひとり区別することなく聞くことに似ている」と表現しています。

「ナノヘルツ重力波天文学の時代が到来しました」とNANOGravコラボレーションが語るように、背景重力波の研究はまだ始まったばかりです。今後のNANOGravの成果にはカナダのCHIME望遠鏡による観測データも含まれるようになるということで、銀河どうしが衝突する頻度やブラックホールどうしが合体する原因、宇宙そのものの形成に関する知見が得られると期待されています。今回の成果をまとめた一連の論文はThe Astrophysical Journal Lettersに掲載されています。

Source

  • Image Credit: NANOGrav collaboration; Aurore Simonet
  • NANOGrav - Scientists use Exotic Stars to Tune into Hum from Cosmic Symphony
  • Caltech - Scientists Find Evidence for Slow-Rolling Sea of Gravitational Waves
  • NASA/JPL - 15 Years of Radio Data Reveals Evidence of Space-Time Murmur
  • The NANOGrav Collaboration - Focus on NANOGrav's 15 yr Data Set and the Gravitational Wave Background (The Astrophysical Journal Letters)

文/sorae編集部

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