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Friday, February 17, 2023

規定乏しい再審法制 請求審の審理手探り 証拠開示の重要性説く【最後の砦 刑事司法と再審⑦/第2章 語り始めた元 ... - あなたの静岡新聞

 〈拘置をこれ以上継続することは、耐えがたいほど正義に反する。一刻も早く身柄を解放すべきである〉

村山浩昭さん
村山浩昭さん

 一家4人を殺害したとして死刑判決が確定した袴田巌さん(86)の再審開始を認めた2014年の静岡地裁決定は、「犯行着衣」をはじめとする重要証拠が捜査機関によって捏造(ねつぞう)された疑いを指摘した。死刑の執行のみならず拘置の執行も停止。「島田事件」など過去の死刑確定事件では再審無罪判決を前に釈放されたことはなく、初めてのケースとなった。
 裁判長として静岡地裁決定に携わった村山浩昭さん(66)は定年退官する前年の20年に「再審請求審の審理について」と題する論文を発表している。主に証拠開示の重要性を説いた。
 村山さんは執筆理由をこう明かす。「再審に関する法の規定が本当に少ない。(証拠開示について)裁判官や検察官から積極的な意見があまり表明されていなかった。悩みながらどう審理したのかを現役裁判官のうちに書いておこう、と」

 500を超える刑事訴訟法の条文のうち、再審に関する規定(再審法)は19カ条。再審請求審の進め方については、裁判所は必要に応じて事実の取り調べができる、としているだけだ。そもそも再審請求は「雑事件」として扱われている。
 村山さんは「訴訟法上、通常の公判請求事件と異なり、期日を指定して進めていくという流れがない。忙しい裁判所に勤務していると、どうしても後回しになることは否定できない」と認める。他方で再審請求書や確定記録を読んだときに「再審開始の芽がある」と思える事件を「深刻な事案」と説明。「刑が重いほど審理を急がなくてはいけない。究極は死刑。執行されたら命は戻ってこない」と強調する。ただ、法の規定が乏しく審理は手探り状態。「裁判官としては、どのように審理を進めるべきか不安になる場合もあるのではないか」と口にする。

 再審法を改正すべきとの立場だ。検察官の証拠開示を法制化する必要性は、袴田さんの再審請求審を担当する前から「ずっと思っていた」。司法修習中や判事補に任官したてのころ、死刑確定事件の再審開始や再審無罪が相次いだ。検察官が裁判所に提出していなかった無罪方向の「古くて新しい証拠」が開示され、大きな役割を果たしていた。
 実務が歴史から学び、成長、発展することを期待していた。「しかし、実務は大幅に変わることはなく、憲法の理念が反映されていないままの状態で来た」。そうであるからこそ、法律を変えるしかないと思う。
 再審法は無罪が確定した人を有罪にするといった「不利益再審」を廃止した以外は戦前の旧刑訴法を引き継ぎ、一度も改正されていない。袴田事件しかり、検察官は再審開始に不服を申し立てることができる。
 「検察は最終的に組織として不服を申し立てることを決定する。検察官の中には、新証拠を見て『再審開始は仕方がない』と感じる人もいると思う。そういう意味では、法律で禁止した方が検察官個人にとっては良い制度になるのでは」
 日本は再審開始が確定すると再審公判に移行する2段階構造を取る。「検察官は再審公判で主張すれば良い。確定判決の権威を守るのか、速やかに冤罪(えんざい)を救済するのか。利益再審制の観点からして後者を優先すべきで、検察官の不服申し立てで再審開始を妨げる必要はない」
     ◇
 袴田さんの再審開始決定を手がけ、名古屋や大阪高裁の部総括判事を歴任して21年に定年退官した村山元裁判官が2月、静岡新聞社の対面取材に応じた。再審法の課題にとどまらず、裁判官としての歩みや刑事司法のあるべき姿を語った。

 むらやま・ひろあき 1956年、東京都生まれ。83年に判事補任官。静岡地裁の部総括判事を経て盛岡地家裁所長。名古屋、大阪両高裁で部総括判事を務め、2021年に定年退官。22年に弁護士登録。東京地裁時代には、裁判長として秋葉原の無差別殺傷事件の審理も担当した。

刑事訴訟法第4編再審(435条~453条、再審法)の抜粋
 (435条)
 再審の請求は、左の場合において、有罪の言い渡しをした確定判決に対して、その言い渡しを受けた者の利益のために、これをすることができる
 6号 有罪の言い渡しを受けた者に対して無罪もしくは免訴を言い渡し、刑の言い渡しを受けた者に対して刑の免除を言い渡し、または原判決において認めた罪より軽い罪を認めるべき明らかな証拠をあらたに発見したとき

 (439条)
 再審の請求は、左の者がこれをすることができる
 1項1号 検察官
 2号 有罪の言い渡しを受けた者
 3号 有罪の言い渡しを受けた者の法定代理人および保佐人
 4号 有罪の言い渡しを受けた者が死亡し、または心神喪失の状態にある場合には、その配偶者、直系の親族および兄弟姉妹

 (445条)
 再審の請求を受けた裁判所は、必要があるときは、合議体の構成員に再審の請求の理由について、事実の取り調べをさせ、または地方裁判所、家庭裁判所もしくは簡易裁判所の裁判官にこれを嘱託することができる

 (447条)
 1項 再審の請求が理由のないときは決定でこれを棄却しなければならない
 2項 前項の決定があったときは、何人も、同一の理由によっては、さらに再審の請求をすることはできない

 (448条)
 1項 再審の請求が理由のあるときは、再審開始の決定をしなければならない
 2項 再審開始の決定をしたときは、決定で刑の執行を停止することができる

 (450条)
 446条、447条1項、448条1項または前条1項の決定に対しては、即時抗告をすることができる

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