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Sunday, October 2, 2022

「やっぱり私は正しい」仮説に合った証拠を集めてしまう「確証バイアス」|バイアスとは何か|藤田政博 - 幻冬舎plus

「もしや○○では…」と思った途端、それを裏付けるような情報がやたらと目にとまる、といった経験はありませんか?

合理的判断を邪魔し、現実を歪んだ形で認識してしまう「バイアス」。もとは人間が生き残りに有利になるため受け継いできた心理的なフィルターですが、場合によっては差別を生んだり、裁判の結果に影響をおよぼす危険性もあるそう。この「バイアス」を実例や研究結果を挙げながらわかりやすく解説する新書『バイアスとは何か』より、一部を抜粋してご紹介します。

人間は目の前の世界を「知識」、「期待」、「思い込み」などのフィルターを通して認識している

目を開き、耳をそばだてれば、現実はありのままに見える。普通、そのように感じがちですが、実際にはそうでもありません。

自分の周囲の現実を認識するときにも、私たちは、頭のなかにある知識期待思い込みなどをフィルターとして、目の前の世界からくる情報をふるいにかけたうえで世界を認識しています。これは少し困ったことのようにも思えますが、逆に、認識のための枠組みや知識がまったくなかったとすれば、私たちは現実を認識することもできないでしょう。このような知識は、心理学では「スキーマ」と呼ばれています(無藤ほか、2018)。私たちは自分にとってなじみのある世界や状況だと、スキーマを使ってうまく、かつすばやく状況を認識できます。しかし、初めての状況や場所では、スキーマがないために状況を理解するのに時間がかかったり、時間をかけてもうまく飲み込めないことがあります(スキーマについては第4章で詳しく説明します)。

このように、私たちが自分なりに現実を認識するための知識、そしてそれを現実に当てはめていく方法は、周囲を認識するために必要なものですが、バイアスとして働くことがあります。そういったバイアスの一つとして、確証バイアスから見ていきましょう。

私たちは次に起こることを「予測」しながら「認識」している

確証バイアスは、仮説が本当かどうか検討する際のバイアスです。仮説というと、まず思い浮かぶのは科学研究でしょう。研究するには仮説を立て、観察し、仮説が現実と合っているかを検証します。仮説と観察結果が合わなければ、仮説を作り直してまたやり直しです。ビジネスでもこれを応用して、事業上の課題の解決策について仮説を立て、施策を行い、結果を観察し、仮説を修正する、ということが行われます。

しかし、研究やビジネスなどの意識的な取り組みでなくとも、私たちは通常身の回りのことについて予測しながら認識しています。

(写真:iStock.com/metamorworks)

たとえば物語を読んでその内容を理解するときには、次にどういう話がくるのかを予測しています。予測に基づいて文字や単語を認識するだけでなく、話のなかに出てくる人物の行為の意味を理解したり、筋を追ったりしています(Read, 1987)。

このように、予測することは私たちにとって不可欠と言えますが、予測に強く縛られすぎると、自分が予測したことを相手が言ったと思い込むなど、間違った認知の原因になることがあります。

「予測に合った事実」を無意識に選択してしまう

確証バイアス」における仮説というのは、科学研究の仮説のような難しいものだけでなく、私たちが普通に持っている予想や期待と言いかえることもできます。こういった予想や期待は、持っていることを自覚していなくても、大きな影響があります。

というのも、私たちは、自分が知らず知らずのうちに持っている思い込みをもとにそれに合う事実を無意識に選択して認知するからです。そして、無意識に選択した事実を頭のなかに取り込んだうえで、「ああやっぱり自分の思っている仮説は正しいんだな」と自分の信念を強化します。

たとえば、あなたが「日本では離婚が多い」と思っているとします。それは自覚的に思っていてもいいですし、特にそのようなことを意識的に考えていなくとも、毎日そういった内容のニュースに多数接しているという場合でもかまいません。

そのような思い込み(仮説)があると、自分の周囲の情報、たとえばインターネット上の情報や新聞を見たときに、有名人のだれそれが離婚したという情報や、定年まで頑張ってきた元企業戦士が定年後に熟年離婚の憂き目にあったというストーリーなどが目につくようになります。ネットニュースや新聞などの情報源のなかから、自分の仮説を肯定するような情報を無意識に選択するのです。それによって自分の仮説は正しいと感じます。

その事例は一般的か?

確証バイアスでは自分の仮説に合致する例を探します。自分の仮説に合う事例のことを「正事例」ということから、このバイアスを「正事例バイアス」「正事例検証方略」と呼ぶこともあります。

先ほどの、離婚が多いという話の例で言うと、自分の親戚で離婚した人がいる、といった事例を挙げることなどです。また、「少年の凶悪犯罪が多い」という仮説を持っているときに、少年による衝撃的な凶悪犯罪の報道が連日されることがあったとします。たった一事例であってもこのような例に接すると、「少年の凶悪犯罪は多い」という仮説が検証されたと思ってしまうのです。さらに、目立つ事象はよく起きていると感じるバイアスもあるので、ますますそのように感じられます。

(写真:iStock.com/RyanKing999)

このように、私たちは自分の持っている仮説に大きく影響されて認識を行います。場合によってはその影響を受けた法改正が行われることもあります。

ですから、今の日本で少年による凶悪犯罪はどのくらい起こっているのか知りたいと思ったら、必ず犯罪白書等の統計に当たる必要があります。もちろん、統計は完全ではないので読むのには注意が必要ですが、確証バイアスに陥るよりも、よく状況を理解できるでしょう。

本来、正事例があるから仮説が妥当だと言うためには、その事例がどれくらい一般的なものかを考える必要があります。仮にその正事例が非常に特殊な少数例ならば、仮説が成り立つのは非常に限られた場合かもしれません。普通、仮説が正しいと主張したい場合は、その仮説が広く成り立つということを言いたいはずです。仮説が成り立つ場合が極端に少なかったり、仮説が成り立つ確率が低い場合に、仮説が正しいと言ってしまうのは問題です。

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