どんな証拠を突きつけたところで無駄なことだ。人間の脳は、必ずしも事実に基づいて客観的に判断するようにできていない。むしろ感情によって左右されがちだ。
「認知バイアス」は、事実から目を背けさせようする。自分の信念を否定するような情報を遮断し、同じ価値観を持つ人々とだけ交流することで、自分は正しく、安全だと感じるようになる。
アメリカ、コネチカット大学のキース・ベリッツィ教授は、「事実が心を変えない」メカニズムを詳しく紹介してくれている。
自分の意見に反するものを否定したい「信念固執」
人間は非合理的な存在だ。だから新たな事実を目にしても、そう簡単に自分の意見を変えたりはしない。その一因は、心の偏りである「認知バイアス」にある。
新たな証拠を突きつけられたとき、人は自分の意見を考え直すことはなく、むしろ証拠を否定しようとする。心理学では、これを「信念固執(belief perseverance)」という。
人は自分の考えの間違いを指摘されると、脅威と感じる。これは政治やアイデンティティに関する信念である場合、特にそうだ。
強く信じていることを否定されると、それを自分への攻撃と感じる傾向にある。
すると、かえって自分の意見に固執するようになる。このことは、地球温暖化やワクチンについての意見など、数々の実験で確かめられている。
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信念を否定する情報を遮断。欲しい情報しか集めない
「確証バイアス」という、信念固執とはまた別の認知バイアスがある。これは、人は自分の意見の正しさを裏付けてくれる情報ばかりを集め、反証する情報を無視、拒絶する心の偏りのことだ。だから、自分と同じ思想や意見を持つニュースだけを見て、同じ考えを持つ者とだけ交流し共感し合う。すると見聞きする情報は、自分の意見に一致するものだけになるし、仲間はみんな賛成者だ。
これは「エコチェンバー現象」と呼ばれており、誤った特定の意見や思想が増幅されて影響力を持ち、攻撃的な意見や誤情報などが広まる危険性が指摘されている。
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そもそも人間の脳はそういう風に作られている
認知バイアスだけでなく、脳の仕組みもまた人を頑固にするよう働く。たとえば、議論で相手を言い負かすと、脳は「ドーパミン」や「アドレナリン」といったホルモンを分泌する。
これは食事や性交をしているときに放出されるホルモンで、その人の気分をよくしてくれる。だから、人は論破されるより、論破する方が好きだ。
一方、強いストレスや不信を感じたときに出るホルモンもある。「コルチゾール」だ。このストレスホルモンは、いわゆる「実行機能」と呼ばれる論理的な思考や理性的な思考を乗っ取ってしまう。
さらに脅威を感じた人の脳では、「闘争・逃走反応」を制御する扁桃体が活発になる。すると、人は声を荒げたり、むっつりと黙り込んだり、あるいは人の話を聞かなくなったりする。
このように脳には相手を論破したいと思わせる機能や、言い負かされそうになると冷静に考えられなくなる機能が備わっている。これが組み合わさることで、なおのこと人は意見や考えを改めることができなくなる。
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心を柔軟にする習慣
こうした認知バイアスや脳の機能があっても、心を柔軟に保つことはできる。ベリッツィ教授は、次のような柔らか頭を育む習慣をアドバイスしている。・心をオープンにして、新しいことを学ぼうという心構えを持つこと。物事をいろいろな視点から考える癖をつけ、何かを考えるときは客観的で正確な情報に基くよう心がける。References:Cognitive biases and brain biology help explain why facts don’t change minds / written by hiroching / edited by / parumo・例外的なことに振り回されない。たとえば、異端の学者がワクチンは効かないと喧伝していたとしても、多数の専門家の意見をもっと重視するべきだ。
・繰り返しに注意すること。たとえ嘘の情報であったとしても、何度も見聞きしているうちに本当に思えてくる。SNSを利用する政治家などは、このことをよく知っている。
・意見を伝えるときは、対立を煽るような言い方はしないこと。
相手が愚かであるかのような伝え方では、たとえあなたが正しかったとしても、耳を傾けてもらえない。うまく質問して、己の考えに疑問を抱くよう相手をうながすのがいいだろう。
・自分も含め、人間は考え方に偏りがあることを心得て、他人の意見にも敬意をもって耳を傾けること。
頭に血が上っていると思ったら、ちょっと深呼吸してみよう。別に自分が間違っていたっていいじゃないか。そこから少しずつ成長していけばいいのだから。
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