いわゆる「袴田事件」の再審・裁判のやり直しに関する協議で、弁護側が申請した物理化学の専門家への証人尋問が東京高等裁判所で行われ、3回に渡って実施された非公開の証人尋問は5日ですべて終わりました。
袴田巌さん(86)は、昭和41年に今の静岡市清水区で一家4人が殺害された事件で死刑が確定しましたが、無実を訴えて再審を求めています。
東京高裁で5日開かれた三者協議では、弁護側の証人として物理化学が専門の北海道大学の石森浩一郎教授への尋問が非公開で行われました。
弁護団によりますと、石森教授は、最大の争点となっている犯人のものとされる衣類についた血痕の色の変化について、「時間がたつと赤みはなくなる」とする弁護側の鑑定書の内容に異論はないと証言したということです。
「証拠はねつ造された」という弁護側の主張を後押しした形です。
3回に渡って行われた証人尋問は5日で終わり、9月の協議では最終的な意見書の提出時期が示される見通しで、11月上旬には検察側が行っている実験を裁判官が視察するということです。
弁護団の間光洋弁護士は「最高裁判所が高裁に与えた『血痕の色の変化を化学的に証明しろ』という課題は、今回で決着がついたと思う」と話していました。
【記者解説】
弁護側の要請で鑑定を行い、証人として法廷でも証言した法医学の専門家がNHKの取材に応じ、鑑定結果について「決定的な証拠になると思う」と述べました。証人尋問のポイントや今後の審理の見通しについて詳しくお伝えします。(記者・小田葉月)
(キャスター)
袴田事件をめぐって、東京高裁での審理がヤマ場を迎えていますね。改めて、審理の争点を整理してください。
(記者)
審理の中心となっているのは、有罪の決め手となった血の付いた「5点の衣類」です。これは事件から1年2か月後に、みそ製造会社のタンクから見つかったものです。検察は「袴田さんが犯行時に着ていて、その後隠したものだ」と主張しています。争点になっているのは、この衣類についた血痕の色です。事件当時の捜査資料では、「濃い赤色」などと記され、赤みが残っていたことがわかっています。これについて弁護側は過去の審理で、血の付いた衣類をみそに漬ける実験を行った結果、赤みはなくなったとして、「証拠はねつ造されたものだ」と主張していました。
2020年12月、最高裁判所は決定で、「弁護側の実験結果では、1年以上みそに漬けられた血液に赤みが残ることがないとは断定できない」と指摘。その上で、みそが血液の色の変化に影響を与える仕組みについて、専門的な知見を調べるよう求めたため、再度、高裁で審理が進められてきました。
(キャスター)
争点は、みそに漬けることによって血液の赤みが失われるかどうか。そして、それを化学的に証明できるかがポイントなんですね。
(記者)
この争点をめぐって、弁護側と検察側はそれぞれ鑑定書や意見書を提出しています。この内容について説明を求めるため、双方が申請した、あわせて5人の専門家の証人尋問が7月下旬から行われ、3回目の5日ですべて終わりました。
(キャスター)
専門家はどのように証言したのでしょうか。
(記者)
5人のうち、弁護側から要請を受けて鑑定を行い、非公開の法廷で証言した旭川医科大学の奥田勝博助教がNHKの取材に応じました。高裁の協議では、事件から1年2か月後にみそタンクから発見された犯人のものとされる衣類についた血痕の色の変化が最大の争点となっていて、検察は時間が経過しても血痕に赤みが残る可能性はあると主張しています。
これについて奥田助教は、みそと同じような▼塩分濃度と▼pH・酸性の度合いになるよう調製した水溶液を血液と混ぜて、赤い色がどのように変化するか、4日後まで観察する実験を行いました。その結果、▼翌日には黒っぽい色に変化し、▼日を追うごとにより黒くなったことが確認できたということです。
奥田助教はこの色の変化について、「みそ特有の高い塩分濃度と弱酸性の性質によって、血液の赤みの原因であるヘモグロビンの性質が変化したり、分解されたりした」と説明しました。その上で、「血液が1年以上みそに漬けられていれば、間違いなく赤みは残っていないと言える。化学的なメカニズムとともに説明できたのは、決定的な証拠になったと思う」と述べました。
(キャスター)
弁護側の専門家は、「1年以上みそに漬けると、赤みは残らない」と主張しているんですね。これに対して検察側が申請した専門家は、どのような主張なのでしょうか。
(記者)
検察側は去年9月から静岡地方検察庁で独自に血痕の付いた布をみそに漬ける実験を行っています。その結果、一定の条件のもとでは、4か月から5か月たったあとも血痕に顕著な赤みがみられたとして、「時間が経過しても血痕に赤みが残る可能性はある」と主張しています。この実験結果について、検察側が申請した法医学の専門家は証人尋問で、「1年たっても赤みが残る可能性はある」と証言したということです。
(キャスター)
検察側の専門家は、弁護側とは逆に、「赤みが残る可能性はある」と主張しているんですね。
(記者)
さらに、弁護側の専門家が行った実験結果については、「『血液』について行われたもので、布に血液を付けた『血痕』でも同じ結果になるかは疑問だ」と述べたということです。
今回、検察側の専門家にも取材を申し込みましたが、事件が継続しているため応じられないという回答でした。
(キャスター)
弁護側の専門家は、こうした反論についてどのように考えているのでしょうか。
(記者)
取材した奥田助教は、検察が行ったみそ漬け実験について、「実験の条件設定や手法に不備がある」と主張しています。さらに、血液を布に付けて作った血痕を、みそと同じような塩分濃度などになるよう調製した水溶液に浸す実験を行った結果、日を追うごとに赤みが失われることが確認できたとしています。奥田助教は、「血液であれ血痕であれ、みそと同じ条件の水溶液をつけると、比較的短時間で赤みが失われると言える。最高裁が決定で求めていた化学的なメカニズムは十分に説明できた」と話していました。
(キャスター)
5日で証人尋問が終わったということですが、今後、審理はどのように進められるのでしょうか。
(記者)
5日の証人尋問のあとに行われた協議で、静岡地検で行われている検察側のみそ漬け実験を、ことし11月上旬に裁判官が現地視察することが決まったということです。この実験は去年9月から行われていて、ことし11月でみそ漬け開始から1年2か月となり、「5点の衣類」の発見当時と同じ条件になるということです。また、弁護団によりますと、9月の協議では最終的な意見書の提出時期が示される見通しで、協議は大詰めを迎えています。
裁判所が証人尋問での証言をふまえ、どのような判断を示すかが注目されます。
※この解説記事は「たっぷり静岡」番組ホームページの「特集」欄にも画像を交えて掲載しています。
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