北海道・知床半島沖の観光船「KAZU I(カズ・ワン)」の沈没事故で、曳航(えいこう)中に水深182メートルの海底に沈んだ船体が26日、ようやく海面上へと姿を見せた。有力な証拠である船体が落下したことで真相解明に影響を与える恐れも指摘されるが、今後、損傷状況やエンジンから、沈没原因の特定が期待される。出航判断と事故との因果関係を立証し、事業者トップの刑事責任を追及できるのか。海上保安庁の捜査では過失責任の所在が焦点となる。(大竹直樹)
海面までつり上げられた船体は、間もなくブルーシートで覆われた。海保幹部は「覆ったのは、大事な証拠物だからだ」と明かす。
海難事故の究明などに取り組む日本海事補佐人会元会長の田川俊一弁護士によると、船体の損傷やエンジンなどの機関部を調査することで浸水の経緯を解明できる可能性が高いという。
4月23日午後1時すぎ、カズ・ワンと無線交信した同業他社の従業員が「浸水してエンジンが止まっている。前の方が沈んでいる」とのSOSを聞いていた。
田川氏は「暗礁や岩礁に衝突して船体に穴が開き浸水したのか。それともエンジンが停止したことで航行不能となり、風や波に翻弄されて岩礁に衝突したのか推定できる」と指摘する。
海底では無人潜水機の水中カメラや潜水士による調査が進められてきたが、船底やエンジンまでは調べられなかった。海難事故に詳しい近藤慶(けい)弁護士は「目撃者などの証言がないため、事故原因を究明する上で船体の検証は特に重要な意味を持つ」と話す。
カズ・ワンは昨年5月、浮遊物に衝突し、同6月にも浅瀬に乗り上げる座礁事故を起こした。船体に生じた亀裂の修理が不十分で、浸水した可能性も考えられる。
元海保警備救難監で東京湾海難防止協会理事長の向田(むかいだ)昌幸氏は「修理後も安全に航行できる性能・機能に問題を抱えていた可能性も視野に入れ、船体の亀裂や破口だけでなく、機関室の配管系統や推進軸など、浸水に結びつく船内の異常についてもきめ細かく調査が行われるはずだ」と語る。
今回、一連の引き揚げ作業中に1度、船体が落下し、事故当時の状態を完全に保ったまま引き揚げることができなかった。向田氏は「海底に2度接触していることから、浸水・沈没の原因を見極められるかどうかが焦点になる」と指摘。近藤氏は「事故当時の傷と今回の落下でできた傷の識別ができるのであれば、船体の引き揚げによって情報量が一気に増えることが期待される」との見方を示す。
海底への落下による大きな損傷はないとみられ、「事故当時の傷か、海底に落ちた際にできた傷かどうかは、鑑定で識別できる」(海保関係者)という。
国土交通省によると、安全管理規程で定めた運航基準では風速8メートル以上で航行を中止するとしていた。だが事故当日、運航管理者を兼務する運航会社「知床遊覧船」の桂田精一社長(58)は、風速15メートルの予報が出ていたにもかかわらず、船長=行方不明=と話し合い、気象が悪化した時点で引き返す「条件付き運航」を決めた。
近藤氏は「この出航判断が事故原因につながるかどうかが捜査の一つのポイントになる」と話す。
海保は、桂田社長が安全管理を怠り事故を引き起こしたとみて業務上過失致死の疑いで調べを進める。
同罪の成立には、出航が沈没の原因になったという立証に加え、①事故の危険を事前に予見できたか(予見可能性)②その結果を回避するため必要な措置を講じたか(結果回避義務違反)-を立証する必要があるが、船長は行方不明のままで、事情聴取が困難な状況だ。出航判断と事故との因果関係の立証にはなおハードルもあり、捜査は長期化するとみられている。
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