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Saturday, May 21, 2022

船体引き揚げ、証拠保全に腐心 準備作業完了 知床沈没事故 - 産経ニュース

北海道・知床半島沖の観光船「KAZU Ⅰ(カズ・ワン)」の沈没事故で21日、民間業者による準備作業が終わったことで、23日以降の船体引き揚げに向けた態勢が整った。船体は引き揚げ後、陸地に移され、運輸安全委員会による事故原因の究明と海上保安庁の捜査が本格化する。船体は有力な物証となるだけに、いかに事故当時の状態を保ったまま引き揚げられるかが課題となる。

海保によると、引き揚げに向けた21日の飽和潜水による準備作業では、船内の備品などの流出を防ぐため、潜水士が船体のドアやハッチなどを全て閉めた。元第3管区海上保安本部長で日本水難救済会常務理事を務める遠山純司(あつし)氏は「船内の遺留物をなるべく保存することが重要だ。残っている時計などを確認できれば、沈没した時間を推定できる」と指摘する。

国交省によると、カズ・ワンの船体は繊維強化プラスチック(FRP)と呼ばれる素材。遠山氏は「鋼鉄製に比べるとFRPの船は強度が劣る。つり上げる際は、過度の負荷の偏りが生じないように、バランスを取る必要がある」との見方を示す。

こうした点にも配慮し、今回の引き揚げ作業では、金属製のワイヤを使用するとFRPの船体を傷つける恐れがあるため「スリング」と呼ばれるナイロン製のベルトで固定。水深10~20メートルまでつり上げた後、網走沖まで曳航(えいこう)する予定という。

また、現場周辺は浅瀬や岩礁地帯から急に100メートルを超える深さになる急峻(きゅうしゅん)な地形で「海流がかなり速い」(海保)とされる。複雑な潮の流れや天候なども考慮しながら、船体の扱いに細心の注意を払う必要がある。

一方、水難学会の斎藤秀俊会長は「海水の浸入を防ぐため密閉されているはずのハッチが開いていたとすれば、引き揚げのためにハッチを閉めるのは問題」と懸念。「証拠能力に影響を与える恐れがあるため、密閉するのは出入り口程度にとどめるべきだった」と指摘する。

これに対し、海保関係者は「船体の証拠保全には万全を期し、全力で取り組んでいる」と強調。日本サルヴェージの作業船「海進」には海上保安官が同乗し、船体の状況を逐一、確認しているという。

海上保安官は警察官と同様、刑事訴訟法の定める職務に従事できる特別司法警察職員。引き揚げの目的は行方不明者の捜索と事故原因の究明だが、刑事責任追及に向けた今後の捜査も視野に入れた対応といえる。

引き揚げ作業は、大気圧の13倍の水圧がかかるという深さ約120メートルの海底で行われる。深い海という特殊な環境下での作業は困難がつきまとうが、船体は事故原因を特定する大きな手がかりとなる。証拠保全の観点からも、より慎重な作業が求められそうだ。(大竹直樹)

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