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Monday, January 17, 2022

福島第一原発で制御棒が揮発した証拠を初めて明らかに! | 研究成果 - 九州大学

 九州大学大学院理学研究院の宇都宮聡准教授、理学府修士課程1年の笛田和希大学院生らの研究グループは、福島第一原発から放出された高濃度放射性セシウム含有微粒子(CsMP)に含まれるホウ素同位体(10B, 11B)とリチウム同位体(6Li,7Li)の精密分析を行い、中性子捕獲の役割をしていた制御棒(B4C)の一部がメルトダウン時に揮発した証拠を初めて示しました。国立極地研究所、筑波大学、東京大学、東京工業大学、日本原子力研究開発機構、フィンランドHelsinki大学、仏Nantes大学、米Stanford大学との共同研究の成果です。 
 2011 年、福島第一原発炉内で起きたメルトダウンで核燃料と原子炉構造物が混ざり合いながら溶け落ちて燃料デブリとなりました。中性子を吸収して核分裂反応を制御していた制御棒(炭化ホウ素(B4C) で構成される)も燃料デブリ中に残存し、核分裂の連鎖反応を防ぐ重要な要因になっています。一方でメルトダウン時には揮発したケイ素とセシウムが凝縮して原子炉内で大量の CsMP が生成し、環境中に放出されました。我々はこの CsMP を土壌試料から単離して、高分解能透過型電子顕微鏡、二次イオン質量分析計を駆使してそれらの構造、同位体組成を分析しました。
 今回分析した4つのCsMPは図1に示すように数ミクロンから数十ミクロンの大きさで、これまでに発見されてきたCsMPと同様にケイ素、セシウム、亜鉛、鉄を主成分として、微量のアルミニウムやナトリウムを含みます。国立極地研究所にある高感度高分解能イオンマイクロプローブ(SHRIMP)を用いて、これらの粒子に含まれるホウ素同位体、10Bと11B、リチウム同位体、6Liと7Liを初めて定量することに成功し、10+11Bは1518~6733 mg kg-17Liは11.99~1213 mg kg-1含まれることを示しました(表1)。またCsMP中の11B/10B同位体比は4.15~4.21と分析され、天然存在比4.05よりも高くなました。さらに7Li/6Li同位体比も213~406と分析され、天然存在比12.5より大幅に高い値となりました(図2)。これはメルトダウン以前にB4C制御棒の中で10B(n,α)7Liという核反応(ホウ素-10が中性子を吸収した後にα粒子を放出してリチウム-7に変化する反応。中性子の量を制御して核分裂反応を維持する重要な反応。)が起きていた証拠であり、ケイ素やセシウムが揮発、凝縮してCsMPが生成する時にB4C制御棒から揮発していたホウ素とリチウムが同時に取り込まれたことを示しています。その時、ホウ素よりもリチウムの方がより揮発して取り込まれたことも分かりました(表1)。また、熱力学計算コードを用いてメルトダウン時の揮発相を計算したところ、揮発したホウ素の主要な化学形態がCsBO2であると示唆されました。
 一方でCsMPのホウ素含有量に基づき、CsMPの飛散量(>3×1012個)から原発から外部に放出されたホウ素量を計算すると0.024 g程度、放射性核種を大量に含んだ2011年3月14~16日頃に放出された大気流(プルーム2と3)のほとんどがCsMPだったと仮定しても放出されたホウ素量は62 gと計算されました。これらの値から、原子炉内にはB4C(メルトダウン時に2号機と3号機にはそれぞれ960 kgあった)が十分な量残留し、核分裂の連鎖反応を防ぐ重要な要素の一つになっていることが分かります。しかしながら、揮発したホウ素は原子炉内部、周辺で容易に凝縮、沈積する性質があるため、デブリ内部と周囲における不均一なホウ素分布に注意しながらデブリの取り出し方法を選定し、安全に遂行する必要があります。
 本研究成果は、2022年1月15 日(土) に国際誌「Journal of Hazardous Materials」に掲載されました。

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