
事件や事故の捜査で、証拠を見つけ、調べる仕事に力を尽くす人がいる。県警の科学捜査研究所(科捜研)研究員や鑑識課員の姿を追った連載「証拠を求めて」。続編では彼らに加えて、遺体を調べる検視官と司法解剖を行う医師を取材。その職務への思いを聞いた。
昨年6月、岩井研究員のもとに約50本の手巻きたばこが届いた。大麻の使用が疑われる男から押収した証拠品だ。
大麻の吸引には、大麻草を織り込んだたばこに火を付けて、煙を吸う方法がある。一見しただけでは、普通のたばこと違いはない。メスで一つ一つたばこを切り開き、顕微鏡をのぞき込んだ。
2日間にわたって調べたが、大麻草は見つからない。同僚の誰もが「もう出ない」と諦めかけていた。だが、残り最後の1本に、わずか数ミリ弱、焦げた緑色をした大麻草のかけらを見つけた。男は大麻取締法違反容疑で逮捕された。
大麻は「ゲートウェードラッグ」と呼ばれる。好奇心から気軽に手を出し、コカインなどより深刻な薬物依存につながるからだ。「容疑者のためにも、ここで食い止めることができて良かったのでは」と振り返る。
2019年に、県警で約20年ぶりの女性研究員として採用され、化学科で薬毒物の鑑定などに取り組む。
神戸市で生まれ、中学生の頃、理科の授業が好きで生物部にも所属し、「将来の職業は科捜研」と考えていた。だが、科捜研の採用枠は少ない。有利になるからと、大学は化学科と法医科の受験資格を得られる薬学部を選んだ。九州から北陸までおよそ10県警の試験を受け、徳島県警の採用を勝ち取った。
10年来の念願だった職業だが、実のところは、依頼される鑑定を黙々とこなす仕事かと思っていた。けれど、実際の科捜研は想像と少し違っていた。
研究員が捜査員から現場の状況を聞き取り、現場の状況を細かく把握し、事件の背景に考えを巡らせる。そこまでしなければ鑑定結果に責任をもてない。
自分の仕事は、捜査の行方と、ひいては誰かの一生までも左右するのだから。「『自分も捜査の一員だ』と胸が張れるほどの準備をして、鑑定に臨みたい」。10代で志したこの仕事。その重みとやりがいに日々、背筋が伸びる思いがしている。
(この連載は上田裕子が担当します)
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