2021年4〜5月、発生から時間が経過した3件の未解決殺人事件に大きな動きがあった。決め手はいずれも、パソコンやスマートフォンなどに残された証拠を調査・解析することで得られた位置情報などの「デジタル証拠」だった。警察だけでなく検察にも専門部署が設立されるなど、捜査の現場で活用は加速。自白や供述に頼る捜査が曲がり角を迎える中、難事件の解決に向けた新たな武器となりつつある。
スマホの解析で……
最初に動きがあったのは「紀州のドン・ファン」と呼ばれた和歌山県田辺市の資産家、野崎幸助さんが18年5月、急性覚醒剤中毒で死亡した事件だった。
県警は21年4月、殺人容疑で元妻の須藤早貴容疑者を逮捕した。捜査関係者によると、スマホの解析で事件前に「殺害」「覚醒剤」などと検索していたことが判明。覚醒剤の密売人と接触していたことも明らかになり、殺人と覚醒剤取締法違反の罪で起訴された。
続いて進展したのは、茨城県境町で19年9月、一家4人が殺傷された事件だ。金品を物色した形跡がなく、県警は当初、顔見知りの犯行とみて捜査。周辺に防犯カメラはほとんどなく難航したが、周辺の不審者情報などから、岡庭由征容疑者の存在が浮上した。
スマホの解析結果から現場周辺を検索した履歴や付近を撮影した画像が確認された。県警は21年5月、夫婦への殺人容疑で岡庭容疑者を逮捕し、子供への殺人未遂などの疑いでも再逮捕した。
さらに同月、今度は京都府警が、11年3月に死亡した男性への殺人容疑で男性の息子で医師の山本直樹容疑者を含む男女3人を逮捕した。山本容疑者は20年7月、ALS(筋萎縮性側索硬化症)の女性患者に対する嘱託殺人容疑で府警に逮捕されていた。
遺体は司法解剖されないまま火葬されていたが、被害者が亡くなる前後、山本容疑者と共犯の母親との間で殺害をほのめかすメールがやり取りされていたことが判明。転院と称して連れ出し、殺害した疑いが浮上したという。
昔なら困難
殺人などの重大事件の捜査では通常、供述やDNA型鑑定、指紋、防犯カメラ映像といった証拠が重要になるが、今回の事件ではいずれも「決定打」としては乏しかった。
最高検幹部は「いずれも昔であれば、逮捕できなかった事件だっただろう」と打ち明ける。
かつて「証拠の王様」とされてきたのは、当事者による自白だった。犯人しか知りえない「秘密の暴露」があるからだが、公判などで任意性が問題となることもあり、その重要性は低下している。
ある検察関係者は「自白を取れる捜査官こそが一流、という時代もあったが、今は容疑者を説得して供述させる技術を持った人間も少なくなった上、一部で強引な取り調べも問題になった」と打ち明ける。
こうしたなか、捜査当局が活路を見いだしているのが、デジタル証拠だ。警察ではデジタルフォレンジック(DF)と呼ばれる電子鑑識の技術向上に取り組んでおり、検察当局も最高検が21年4月、全国の検察のDF技術を支援する「先端犯罪検察ユニット」(JPEC)を創設するなど、客観証拠を重視する姿勢を打ち出している。
別の検察幹部は「かつてはDNA型(鑑定)についても一部の警察・検察しか分からず、苦労した。デジタル証拠も当初は専門的な分野だったが、ようやく(事件捜査での)活用が一般化してきた」と明かす。
一方で、別の検察幹部は「デジタル証拠を積み上げて(事件の)ストーリーを描く能力は向上してきたが、それが裁判でも通用するものかが焦点になる」と、今後の課題を語った。(荒船清太、吉原実)
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