孤独死などで遺体が長時間放置された部屋は、死者の痕跡が残り悲惨な状態になる。それを原状回復させるのが、一般に特殊清掃人と呼ばれる人たちだ。長年、この仕事に従事し、昨年『事件現場清掃人 死と生を看取る者』(飛鳥新社)を出版した高江洲(たかえす)敦氏に、練炭自殺した60代男性について聞いた。 ***
特殊清掃の現場では、ペットの死骸が出てくることは珍しくない。特に一人暮らしの高齢者は、寂しさを紛らわせるためなのか、ペットを飼っていることが多いからだ。 「今回は、不動産会社から依頼で受けた仕事です。その会社が管理する都内のワンルームマンションで60代男性が自殺したというのです」 と語るのは、高江洲氏。 「早速現場に向かったのですが、玄関のドアを開けると、そこは地獄のような光景が広がっていました。凄まじい腐敗臭とペットの糞の臭いが部屋に充満しいていました。男性は小型犬を15匹飼っていて、13匹が餓死しそのまま放置されていました。そして、2匹がかろうじて生き残っていました」
床一面に犬の糞
ワンルームマンションだけに、広さはわずか16㎡である。 「6畳に、ユニットバス・トイレ、ロフトという間取りです。孤独死した人が1、2匹犬や猫を飼っていることはよくありますが、さすがに15匹というのは聞いたことがありませんね。しかもあんな小さな部屋で。床一面に、足の踏み場もないほど犬の糞が散らばっていました。恐らくペット依存症だったのではないしょうか」 男性は、トイレで亡くなっていたという。 「練炭自殺でした。2つの練炭の燃え殻もありました。死後2週間してから発見されたため、トイレの床には体液が広がっていました。私が部屋を訪れたのは死後3週間ほどしてから。2匹の犬はよく生きていましたね」 それにしても、男性はペットのことは考えずに自ら命を絶ったのだろうか。 「当然ですが、ペットは世話をしてくれる人がいなくなり、部屋から出られない状況に置かれれば死んでしまいます。せめてペットを生かす方法を考えてもらえれば、あんな悲惨なことにはならなかったはずです」 高江洲氏は、かつて仕事を請け負った、都内の高級住宅街にあった会社経営者夫妻の家を思い出したという。 「『家がとてもひどい状態だから片付けて欲しい』と仕事の依頼がありました。ところが、どんな状況なのか聞いても、『実際に見てもらったほうがいい』と言うばかりでした。訝りながら現場へ向かいました」
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