恵まれた環境は不幸な環境でもある
3月のモンゴル戦に続き、二桁得点でミャンマーに圧勝した森保ジャパン。これにより、W杯アジア2次予選グループFの首位通過が確定し、最終予選進出が決定した。
2試合を残した段階で、6戦全勝の勝ち点18ポイント。総得点37、失点0という数字も、まったく落ち度のない完璧さ。W杯本大会に出場した過去の2次予選(最終予選の前段階の予選ラウンド)と比べても、例を見ないほどの圧倒ぶりだ。
おそらく、残りの2次予選2試合を含めれば、最終的に40ゴール以上を叩き出す可能性は高い。
ただし、3月のモンゴル戦と今回のミャンマー戦は、極めて特殊な状況下で行われた試合だったことを忘れてはいけない。もちろん、もともとベストメンバーの日本が勝って当然の相手ではあるが、さらにこの2試合においては、日本に大きなアドバンテージがあった中で戦った試合だった。
3月の千葉フクアリで開催された試合は、本来はモンゴルのホーム試合だった。しかし、モンゴルにおける新型コロナウイルスの感染拡大によりホームでの開催が困難となり、本来アウェイに出向くはずの日本がホームに迎えるかたちで開催された。
グループFの初戦となった2019年9月10日、当時のFIFAランキングで210チーム中183位のモンゴルをホームに迎えた日本は、6-0で完勝している。その相手が、異例のかたちでホーム戦を日本で戦いたいと申し出たのだから、事情は察して余りある。
そして、今回のミャンマーはそれ以上の特殊な環境下にあった。
軍のクーデター以降、ミャンマー国内では混乱が続き、現在も市民の生活が脅かされた状態が続いている。代表選手も市民、国民である以上、サッカーに集中できる状況にないのは明らかで、ヘイ監督のように、表向きには政治とスポーツは切り離して考えると言っても、それはあくまでも建前であって、現実にはそうはいかない。
事実、多くの選手が今回の招集を拒否し、試合前のスタジアム周辺に集まったミャンマーの人たちが、現在のミャンマーを代表して試合をすることに抗議する一幕もあった。ミャンマーの選手たちのメンタルコンディションは、火を見るより明らかだ。
さらに、このコロナ禍の中で、昨年は代表の試合を1試合も行えず、国内リーグも10月に打ち切りとなったため、半年以上もプレーできていない選手たちが、約1ヶ月前からのトレーニングで日本戦に挑んでいる。
また、ヘイ監督が「我々が1週間前に来日できたのは幸運」と語るほど、日本入国までは困難を極めたという。フィジカルコンディション的にも、とても日本とまともに戦える状態にはなかっただろう。
つまり、格上の日本はほぼ通常通り、今回の比較で言えば恵まれたかたちで試合を迎えた一方で、モンゴルやミャンマーは試合をするのが精一杯といった特殊な状況で日本に挑まなければならない事情があった。
それを考慮すれば、日本が見せたパーフェクトな2試合を通常のモノサシで測ることはできないし、むしろ特殊なケースとして評価の対象外とすべきなのは明らかだ。
これまで日本が戦ったアウェイでの2次予選は、実質的に2試合。2019年10月15日のタジキスタン戦(○0-3)も、2019年11月14日のキルギス戦(○0-2)戦も、勝利はしたが、いずれもホームで勝った試合のような実力差を出せなかった、低調な内容だった。
もともとホームとアウェイではまったく別の顔を見せる日本代表の過去の例からすれば、アウェイの試合こそが、本当の実力を測るための最適なサンプルになる。そういう意味では、コロナ禍によって、残りの試合を日本で集中開催することになったグループFの2次予選では、森保ジャパンの実力は測れない。
もちろん、選手や監督は与えられた条件でやるしかないので、どうしようもない。常にベストメンバーで、終了の笛が鳴るまで攻撃の手を弛めないという方針は指揮官次第だが、選手はその指示に従う中でベストを尽くすのは当然だ。
大事なのは、見誤らないことだ。
アジア2次予選の他のグループの状況を見れば分かる通り、最終予選のライバルと目されるチームの中には、予想外の苦戦を強いられているチームが意外と多い。仮に日本が他のグループに入っていたら、ここまでの圧勝は難しかっただろう。
おそらく、もともと他と比べて圧倒的に恵まれたグループで、しかも日本のアドバンテージが多い特殊な状況下で行われた2次予選をパーフェクトな結果で突破したことは、逆に、これから迎える最終予選に向けてはネガティブに働く可能性が高い。
最終予選に駒を進める他のライバルたちは、2次予選でそれなりに熱い湯を浴びながら自らを鍛錬できている。そんな中、ぬるま湯しか出てこない風呂でしか鍛錬できなかった日本が、突然熱湯を浴びた時、果たしてどのようなリアクションを見せられるのか。
現場の力だけではいかんともしがたい恵まれた環境下で、また、先を見据えた場合は不幸にも見える状況の中で、どこまで最終予選をイメージしながらプレーできるか。2次予選突破が決まった後はさまざまなトライができると公言する森保監督が、親善試合を含めた残りの4試合で、どんな采配を見せるのか。
見る側も、そんな視点で森保ジャパンの動向を見つめたい。
※以下、出場選手の採点と寸評(採点は10点満点で、平均点は6.0点)
【GK】川島永嗣=6.0点
19年11月19日のベネズエラ戦以来のスタメン出場。後半にボックスを飛び出て危ないシーンを招いたが、相手のシュートが枠外の1本だった点も含めて、無難に仕事を終えた。
【右SB】酒井宏樹(HT途中交代)=6.0点
ハイライトは前半30分に相手ボックス内でファールをもらってPKを獲得したシーン。全体のバランスを考えて攻撃参加は自重気味だった。五輪候補に合流のため、前半で退いた。
【右CB】板倉滉=6.5点
冨安が負傷欠場のため、吉田とのCBコンビでスタメン出場。パス供給やドリブルでの持ち上がりを駆使して攻撃に絡んだ。終了間際にFKからヘディングで代表初ゴールを決めた。
【左CB】吉田麻也(HT途中交代)=6.5点
序盤からくさびの縦パスを使って攻撃の起点となった。相手の攻撃を受ける回数が少なかったため、守備面で見せ場はなく無難に対処。五輪代表に合流するため、前半で途中交代。
【左SB】長友佑都=6.5点
4バックの左SBとしては19年11月14日のキルギス戦以来のプレーとなったが、上々の内容でフル出場。前半から果敢に攻撃参加し、22分と36分に大迫のゴールをアシストした。
【右ボランチ】遠藤航(69分途中交代)=6.5点
持ち前の素早いアプローチから高い位置でボールを刈り取り、素早く展開するなど持ち味を発揮した。どちらかと言うと守田を前気味にし、少し下がった位置でバランスを整えた。
【左ボランチ】守田英正(62分途中交代)=6.5点
後半56分には室屋のクロスに対して、自らボックス内に顔を出してフィニッシュに成功。ポジショニングと判断が的確で、3月の2試合に続いて攻守両面で成長ぶりを証明した。
【右ウイング】伊東純也(78分途中交代)=6.5点
ゴールやアシストはなかったが、右ワイドの位置から多彩なパターンでチャンスメイクした。22分、36分、49分の大迫のゴールに間接的に関与するなど、上々の内容を見せた。
【左ウイング】南野拓実=7.5点
左ハーフスペースと大外を使い分けて、攻撃の核となった。8分に鎌田とのコンビで先制点を決め、66分に2点目を記録。終盤にも2アシストを記録するなど、申し分のない内容。
【トップ下】鎌田大地=7.0点
絶妙な立ち位置で味方のパスを引き出し、相手守備陣を混乱させた。南野の先制ゴールをアシストし、84分には自らゴールを決めるなど、しっかり数字を残すことにも成功した。
【CF】大迫勇也=7.5点
今季ブンデスで無得点に終わった鬱憤を晴らすかのように、怒涛のゴールラッシュを見せた。相手との兼ね合いもあるが、2試合連続ハットトリックを記録。1試合5得点は自身初。
【DF】植田直通(HT途中出場)=6.0点
吉田に代わって後半開始から途中出場。板倉が左CBに移動し、右CBのポジションでプレーした。特に目立った点はなかったが、相手の攻撃に対して無難な守備を見せ、及第点。
【DF】室屋成(HT途中出場)=6.5点
酒井に代わって後半開始から途中出場。すぐに試合に馴染み、積極的に右サイドを駆け上がってチャンスを作った。後半56分に守田のゴールを、84分に鎌田のゴールをアシスト。
【MF】原口元気(62分途中出場)=6.0点
守田に代わって途中出場し、4-3-3の左ウイングでプレーした。持ち前の積極性は見せたが、直接ゴールに関わることはできず。短い出場時間の中で、及第点のパフォーマンス。
【MF】橋本拳人(69分途中出場)=6.0点
遠藤に代わって途中出場し、4-3-3のアンカーポジションでプレーした。低めの位置でカウンターを警戒しながら、敵陣での守備で貢献。危なげないプレーで試合を終わらせた。
【FW】浅野拓磨(78分途中出場)=採点なし
伊東に代わって途中出場し、4-3-3の右ウイングでプレー。出場時間が短く採点不能。
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