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Friday, May 21, 2021

名前知らない、証拠も不十分… 訴訟を起こすには:北海道新聞 どうしん電子版 - 北海道新聞

 慰謝料請求や損害賠償請求などで裁判を起こしたいけれど、相手の氏名や住所が分からなくて、証拠も十分にない…。そんな時、どこに相談したらいいのか、途方に暮れてしまう人は少なくありません。弁護士は法律に定められたさまざまな制度に基づいて、知りたい情報を調査することができます。実際に、どのようなことをしてくれるのでしょうか。民事事件における弁護士の調査権限などについて、札幌弁護士会の平田唯史弁護士に聞きました。(聞き手 水野可菜)


■「弁護士会照会」で情報の取得可能

――相手の氏名や住所が分からない状態でも、弁護士に相談していいのでしょうか。

 もちろんです。実際にそのような相談をお受けすることはあります。よくあるケースとしては、配偶者と不貞を働いた相手に慰謝料を請求したいけれど、相手の携帯電話番号またはメールアドレスしか情報はない、あるいは自分の土地にずっと放置された車両の撤去を求めたいが、ナンバープレートしか分からないといったことがあります。そうした場合でも、弁護士会照会という制度を利用して、相手の氏名や住所などの情報を取得することが可能です。

――弁護士会照会とは、どのようなものですか。

 弁護士が、依頼を受けた事件について、証拠や資料を収集するために役所や企業、民間団体などに必要な事項を問い合わせることができる制度です。弁護士が職務活動を円滑に行うために設けられた制度で、弁護士法23条の2に定められています。手続きとしては、個々の弁護士が所属弁護士会に照会を申し出、審査を経て、弁護士会会長名で照会を行います。札幌弁護士会の場合、照会1件につき4千円の手数料がかかります。

――照会に対して回答する義務はあるのですか。

 判例上、弁護士会照会を受けた照会先は、正当な理由がない限り、照会された事項について報告をすべき義務があるとされています。このような義務があるため、例として挙げた配偶者の不貞のケースでは、携帯電話会社に対して電話番号やメールアドレスから契約者の氏名、住所を照会すれば、これらの情報を回答してもらえる可能性があります。また、放置車両のケースも、運輸支局や軽自動車検査協会に対してナンバープレートから同様に車両の所有者、使用者の氏名、住所を照会すれば、回答してもらえる可能性があります。

■財産を調査 損害賠償の「逃げ得」許さない

――弁護士会照会を利用すれば、裁判を起こす足がかりになりそうです。

 そうですね。裁判を起こした後も、弁護士会照会が利用されることがあります。典型的なものの一つに、相手の「財産調査」があります。損害賠償の支払いを求める裁判を起こして、無事に勝訴判決を勝ち取ったとしても、相手が支払いを無視し続けるケースが横行しています。そのままでは、せっかくの勝訴が無駄になってしまう。「逃げ得」を許さないためには、裁判所に強制執行を申し立てることを検討せざるを得ませんが、そもそも強制執行するためには、対象とする財産がどこに、いくらあるのかを特定する必要があります。その特定のために、弁護士会照会を利用することができるのです。

――財産を特定する際は、どのような手続きになりますか。

 まずは金融機関に対して相手名義の口座の有無や口座の入出金状況を照会することが考えられます。札幌弁護士会では、裁判所の確定判決や仮執行宣言付判決、和解調書、調停調書などがある場合、口座の有無に加え、直近1年分の取引履歴を照会しています。このような照会に対しては、多くの金融機関から回答を得られる傾向にあります。

 また、口座がどこの金融機関にあるのか分からない場合は携帯電話会社、クレジット会社、電気、ガス会社に対して引き落とし口座の照会を行うこともありますし、保険会社に対して相手名義の保険契約の有無や解約返戻金の額を照会することもあります。

――弁護士会照会でさまざまな調査が可能になるのですね。

 そうですね。ただ、照会先からの回答についても、事件と関係ない個人のプライバシーに関わる情報や、照会先の守秘義務の対象となる情報が含まれていることも多いので、依頼者にそのまま見せることができるわけではないことはご理解いただく必要があります。

■相続関係の調査は「職務上請求」で

――弁護士会照会以外にも、調査のために使える制度はありますか。

 はい。そのほか、弁護士会照会のように弁護士だけに認められている制度ではありませんが、職務上請求という制度もあります。弁護士や税理士などが、受任している事件や事務に関する業務を遂行するために必要がある場合、戸籍謄本、住民票の写しなどの交付を請求することができる制度です。それぞれ、戸籍法、住民基本台帳法を根拠としており、必ず回答がもらえます。把握している相手の住所に間違いがないか確認したり、相続関係の調査をしたりするときに使います。

――相続関係の調査とは、どのような場合に必要となるのですか。

 遺産分割協議の際などに必要です。この協議は相続人全員で行わなければ無効となってしまうので、前提として、疎遠な親戚まできちんと相続関係を調査しておく必要があります。弁護士に頼まずに調査することも可能ですが、戸籍の読み方には専門的な知識が必要で、被相続人の婚姻歴、離婚歴、家族関係によっては複雑なことも多いので、相続問題の依頼は相続関係の調査もあわせてお受けすることが多いです。

■証拠収集の手段としても有効

――相手の氏名や住所を特定できても、証拠が十分にない場合もあります。

 証拠が十分でない相談も決して珍しいものではありませんが、相談者が「証拠が十分でない」と考えている場合でも、意外と証拠が足りている場合もあります。なので、まずは弁護士に相談してみることをお勧めします。その上で、先ほどの弁護士会照会は有益な手段の一つです。弁護士の工夫次第で、さまざまな場面で証拠収集の手段として用いることができます。

――実際にはどのようなケースになりますか。

 例えば、交通事故関係の紛争で、捜査機関に対して実況見分調書、物件事故報告書の内容や信号サイクルを照会したり、事故現場付近で防犯カメラを設置しているコンビニに照会して映像から事故態様を把握したりすることがあります。

――弁護士会照会は証拠収集にも使える制度なのですね。

 はい。任意の情報提供には応じかねるものの、弁護士会照会なら回答するという照会先もあるので、相談内容に応じて制度を利用します。また、なかなか証拠の開示に応じてもらえない場合には、民事訴訟法に基づく「証拠保全」という制度を使うこともあります。

――どのような制度でしょうか。

 例えば、未払い残業代を請求する時に会社に保管されているタイムカードや業務日報を確保する、医療過誤で損害賠償を請求する時に病院に保管されている医療記録を確保するなど、このままでは廃棄されてしまうかもしれない証拠をあらかじめ確保しておく制度で、裁判所に申し立てる必要があります。裁判所に証拠保全の必要があると認められれば、存在する証拠については、裁判所が保存してくれます。証拠は裁判所に書面化されて保管され、実際の裁判で使用することができます。このようにさまざまな制度を用いて証拠を集めることが可能です。

――証拠が十分でないと感じても諦めるのはまだ早いというわけですね。

 はい。相談者の中には、決定的な証拠がないとだめだと思っている人も少なくありません。例えば、探偵に不貞相手の写真を撮ってもらおうとするケースも聞きますが、直接的な証拠がなくても、メールやLINEなどメッセージのやりとりから立証できる場合も多いです。ささいなものだと思っても証拠や資料を残しておくことや、早い段階で弁護士に相談するといったことも大切です。

 最近では、SNSやネット掲示板で誹謗中傷されたとして、投稿者を特定したいという相談も増えています。この問題については、こちらの記事をご参照ください。


 <平田唯史(ひらた・ただふみ)弁護士>1983年生まれ。東京都生まれ埼玉県育ち。北大法学部、東京都立大法科大学院修了。2009年に弁護士登録。14年に司法修習同期の弁護士2人と「阿部・千崎・平田法律事務所」を設立。主に民事事件を取り扱うが、分野を限定せず、興味関心を持って一つ一つの依頼に取り組むことを理念としている。現在、札幌弁護士会照会審査室副室長を務める。6歳の息子と3歳の娘の父であり、息子とのポケモンカードゲームは日課となっている。東京マラソン2021に当選したため、コロナ禍が収まることを祈りつつ、数年ぶりにマラソンのトレーニングを始めた。

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