孤独死などで遺体が長時間放置された部屋は、死者の痕跡が残り悲惨な状態になる。それを原状回復させるのが、一般に特殊清掃人と呼ばれる人たちだ。長年、この仕事に従事し、昨年『事件現場清掃人 死と生を看取る者』(飛鳥新社)を上梓した高江洲(たかえす)敦氏に、孤独死した80代の女性について聞いた。 ***
一般的に誰にも看取られずひとりで亡くなることを孤独死という。だが、長い間特殊清掃に携わってきた高江洲氏に言わせれば、孤独死とは故人の死を誰ひとり偲ぶ人がいない状態のことだという。今回ご紹介するのは、その典型的なケースである。 「神奈川県にあるアパートの大家さんから依頼がありました。80代の女性がトイレの中で座ったままの状態で亡くなっていたそうです。死後2週間経って発見されたといいます」 と語るのは、高江洲氏。 「ところが、この女性の遺族が見つからず、大家さんは困っているという話でした」 高江洲氏は早速、現場へ出かけた。
石膏のマリア像
「出迎えてくれた大家さんは、人当たりのいい優しい人でした。日頃からみかんやりんごなどを入れた袋をアパートの部屋のドアノブに掛けておくなど、住人に気をつかっていたそうです。ところが亡くなった女性からは、『そういうものはいらないからやめてほしい』と言われたこともあり、付き合いもほとんどなかったそうです。女性は、人との関わりを絶って生きていたようです」 アパートの間取りは6畳と4畳半の2Kだった。 「玄関を開けると、すぐ右手にあるトイレから人間の腐敗臭が漂ってきました。トイレの床は、一面に体液が広がっていました」 高江洲氏は、6畳の和室に通じる襖を開けた時、思わず「あっ」と声をあげたという。 「畳の上にマリア像が置いてあったのです。あたかも赤ん坊を見下ろすように、首を傾げていました。石膏で作られた白い像で、高さは40センチほどでした。そして壁にも、同じマリア像のポストカードが飾ってありました」 部屋はきれいに整頓されてあったという。 「最小限の荷物しかなく、質素な暮らしぶりがうかがえました。マリア像があったのでクリスチャンかと思いましたが、聖書やキリスト教に関連する書籍や書類は一切ありませんでした。キリスト教に傾倒しているようには思えませんでした」 高江洲氏は、改めてマリア像を見てみた。
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