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Tuesday, September 29, 2020

小泉今日子「プロデューサーになったのは、残り時間は長くないから」(2020年9月30日)|BIGLOBEニュース - BIGLOBEニュース


「コロナ禍が続き、多くの人が頑張ることに疲れたと感じている。そんなときこそ、いい映画を観た、いい演劇に触れた、いい本を読んだ、ということが励ましになるはずです。」(小泉さん)(撮影:木村直軌)

10月1日から東京・本多劇場で「asatte FORCE」を展開する小泉今日子さん。
もともと予定していた公演は新型コロナウイルスの影響で無期限延期となりましたが、「今できることを発信したい」との思いから急遽企画したそうです。
そんな小泉さんが、4月の緊急事態宣言下でリモート映画をつくり配信した映画監督の行定勲さんと、7月末に語り合いました。ウィズコロナ時代、映画・演劇の作り手たちの思いは——。
司会は小説家の重松清さん。現在発売中の『婦人公論』10月13日号の掲載記事を、昨日配信した前編につづき後編をお届けします(構成=福永妙子 撮影=木村直軌)

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<前編よりつづく>

ジャンルを超えた横のつながりを

重松 「好きでやってるんだろう」という言われ方もしますが。

行定 たしかにその通りです。さっきの話の主演女優は、プロデューサーの「今度、絶対にまたやるから」の言葉に、「それを信じて、バイトします」と嬉しそうに答えたそうです。生活ができなくなることよりも、舞台に立つ、その場所を失ったことのほうがつらいんですよ。

重松 よって立つものがなくなる。

小泉 役者さんというのは有名無名にかかわらず、次の出演作が決まっている、撮影予定がある、それが明日への力。だから、プロデューサーとしてできるのは、次の約束なんですね。

重松 “明日〟を見せること。

小泉 そのためにも、基盤である演劇や映画という文化そのものを衰退させてはいけない。けれど、たとえばトークイベントで国の支援について触れたりすると、すごく叩かれます、「国にお金をちょうだいと言ってるよ、この人」と。

演劇やミニシアターのように、小さいけれども、誰かの心に響き、誰かを救うかもしれない文化というものを社会にもう少し認めてほしいという気持ちがあります。私自身は何を言われても平気。でも、お芝居や映画に情熱をもって頑張ろうとしている人たちには、その言葉は切ないですね。

行定 今、僕たちの仲間、先輩、後輩たちが声をあげて、小規模映画館を支援する「ミニシアター・エイド基金」や「セイブ・ザ・シネマ」という活動をしています。この世界で、上にいる人は何もしてくれないし、僕は縦のつながりはなくなっていいとさえ思っています。これからカナメとなるのは、裾野にいる人たちの横のつながりです。

小泉 「We Need Culture」というプロジェクトは、音楽、演劇、映画がジャンルの枠を超えてつながり、文化芸術の継続・復興のために立ち上げたものです。それぞれが「個」として自分のやりたいことに対し責任を持ちながら手をつないでいく、というのは私も考えていました。行定監督がおっしゃるように、「どれだけ横に仲間がいるか」というのが重要な時代になりつつあるように思います。

重松 お話をうかがっていて、ベンヤミンという歴史学者の言葉が浮かびました。「暗闇の中を歩くときに支えになるものは橋でも翼でもなく、友の足音である」。見えないけれど、一緒に歩いている仲間がいると思えば、それがいちばんの力になるのですね。

小泉 今、世界中が同じ状況にありますから、違う国の人たちともそういうつながりが生まれやすいかもしれません。

キョンキョンがプロデューサーになった

重松 話は少し逸れますが、小泉さんがプロデューサーの仕事を始められたきっかけは?

小泉 アイドルとして活動していた頃からアイデアを考えるのが好きでした。衣装のデザインやライブの構成、プロモーションビデオの編集をやらせてくれたり、私のプロデュース能力みたいなものを育ててくれる方が、まわりにたくさんいたんです。でも、自分の作品でしかやってこなかった。

小劇場の公演を観に行くようになって、アルバイトしながら好きな演劇に打ち込む才能のある役者さんとか、世に知られていないけれど面白い脚本を書く人たちがいっぱいいるのを知りました。彼らと何かをしたいと思ったんです。

重松 それで会社をつくった——。

小泉 残された時間は長くない。今から始めないと人生終わってしまう。それで、50歳を機に新たな道に踏み出したのです。

重松 小泉さんの会社の名前は「明後日」ですね。

小泉 私の名前が「今日子」、演劇の制作にとスカウトした女性の名前が、偶然にも「明日子」。

行定 お〜っ。

小泉 できすぎた話ですみません(笑)。それで、明日はまだ役に立たないかもしれないけれど、その次の日の可能性を信じてみようというので「明後日」にしました。

重松 希望につながる名前です。小泉 だけど、今はコロナ禍で、失われていることが本当にたくさんあります。

行定 東京の学校に進学したのに、地方の実家にずっといる学生も多いですよね。閉じられた環境のために、若いときに人にたくさん会って影響を受けたり、自分の概念をぶち壊す存在に触れる機会がないのは実にキツイ。

小泉 本当ですね。私は制作に携わるようになって、若い人、次の世代を意識するようになりました。たとえば、はじめて演劇を観た高校生が「鳥肌がたった」「こんな世界があるんだ」と感想を言ってくれる。

人気脚本家の坂元裕二さんのトークショーを広島でやったときは、「坂元さんのファンで、はじめて遠くからひとりで広島に来ました」という女の子がいました。彼女にとっては、ひとり旅も含めて冒険だったわけです。そんなふうに、私たちの仕事は常に誰かの扉を開けている可能性がある。そう気づきました。

重松 若い世代に新しい価値観が芽生えつつある瞬間に立ち会っているのかもしれない、と思うことは僕にもあって、それは自分にとっても幸せなことであると同時に、大人としての責任も感じます。


「その日、何を着て行こうか、誰と行こうか、そういうことを含めた体験が、『観に行く』『聴きに行く』ことで、そこにはやっぱり特別感があります。」(重松さん)

ネットを入り口に映画館や生の演劇へ

行定 コロナが招いた状況は、パラダイムシフト(価値観が劇的に変化すること)のひとつのきっかけになります。映画の鑑賞の仕方にしても、従来の方法にとらわれず、いろいろなアプローチがあっていい。一方で、もちろん映画館には映画館なりの楽しみ方、特別な場所としての価値があります。

重松 映画や演劇、コンサートは「観に行く」「聴きに行く」と言いますね。動詞が2つ入っている。情報としてだけならば「観る」「聴く」だけですむ。けれど、その日、何を着て行こうか、誰と行こうか、そういうことを含めた体験が、「観に行く」「聴きに行く」ことで、そこにはやっぱり特別感があります。

小泉 自粛期間中にAmazonプライム・ビデオやNetflixなどの配信サービスに加入したり、YouTubeを観た人は多いはず。最初はメジャー作品を観ていた人も、そのうちミニシアター系の映画や演劇が目にとまるかもしれません。そして、「こういう作品、文化もあるんだ」と新たな出会いが、映画館や劇場に足を運ぶきっかけにつながることもあります。

行定 大事なのは多様性。映画館は自分たちの視点で「これだ」というものを選択し、上映すればいいんです。メジャー作品が映画館でかかる時代じゃなくなる。そのなかで、言い方は悪いですが、淘汰されるものも出てくると思うんです。ともかく、コロナ前に戻るという発想は僕にはないなあ。

重松 行定監督のリモートムービー『きょうのできごと〜』に好きなセリフがあります。「仮に、目の前の未来が真っ暗闇だとしても、俺たちは蛍光ペンで描き殴るしかない」。

行定 それを言ったのはMCアフロというミュージシャンで、MOROHAというグループのラッパーです。彼らの『革命』という歌に出てくる詞のスピリットのまま言ったセリフですね。

重松 「描き殴るしかない」、その「しかない」という言葉の根っこにある力強さみたいなものがいい。それを底力というんじゃないか。僕たちもそれぞれ自分のジャンルで底力を見せなきゃいけませんね。


左から小泉今日子さん、重松清さん、行定勲さん

いい作品との出会いが新しい力になるなら

小泉 コロナ禍が続き、多くの人が頑張ることに疲れたと感じている。そんなときこそ、いい映画を観た、いい演劇に触れた、いい本を読んだ、ということが励ましになるはずです。誰かとのおしゃべりのきっかけや、息抜きにもなる。

行定 そういう人たちがいるとわかれば、僕たちも次に進める。作品をつくり続けるしかないな、と思わせてくれます。

小泉 海外の学者さんが言った「コロナ後は利他的な世界になる」という言葉も心に残っています。

行定 それ、いいですね。そこには他者との連帯もあるし。

小泉 さっき、横のつながりという話が出たけれど、どんな人も必ず誰かの役に立てるし、みんながそう考えると、本当に素敵な世の中になるだろうと思います。

行定 先の見えない不安に襲われている今だからこそ、芸術やエンターテインメントがやれることをみんなで考えながら、前に前にと進んでいきたいですね。

重松 厳しい状況にあって、未来を見つめて力強く動き続けているお二人に話をうかがい、僕もたくさん勇気をもらいました。

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September 30, 2020 at 10:05AM
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