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Thursday, August 6, 2020

ルイス・ハミルトンの“奇跡的な“ドライブ──【連載】F1グランプリを読む(GQ JAPAN) - Yahoo!ニュース

突然のパンク もし例年のように10万人の大観衆がサーキットを取り囲んでいたら、イギリスGPの最終ラップは怒涛の声援に包まれたに違いない。52周のレースのすべてがその最終ラップのための序章であり、最後の1周にすべてが集約されたドラマ。それが今年のイギリスGPだった。 何が起こったのか? ポールポジションからスタートしたメルセデスF1チームのルイス・ハミルトンは、2位のマックス・フェルスタッペン(レッドブルホンダ)に30秒の差をつけて最終ラップに突入した。1周約5.8kmのシルバーストン・サーキット。約2km走ったところで左前輪のタイヤが突然のパンク、トレッドとサイドウォールが完全に剥離してしまったのだ。ゴールまでまだ3.8km残っている。フェルスタッペンが急速に追い上げて来る。ハミルトン、万事休す! 前兆はハミルトンのチームメイト、バルテリ・ボッタスのクルマに表れた。ボッタスはそれまでハミルトンに2秒遅れながらも、レースを通して2位を快走していた。その彼がゴールまで6周を残したところで急減速、10秒後ろにいたフェルスタッペンに簡単に2位の座を明け渡した。急減速の理由は左前輪のパンクだった。 「突然のパンクだった。突然振動が起きて左前輪のタイヤトレッドが波打つのがわかった。ハードタイヤに替えてから長い距離を走ったから、タイヤに想像以上の負荷がかかったんだろう」と、ボッタス。 タイヤの限界 メルセデスのピットからすぐにハミルトンに無線が飛んだ。「ルイス、飛ばしちゃだめだ。最速ラップは取りに行かなくていい。タイヤが限界を迎えている」 その頃、優勝の芽がないとみたフェルスタッペンは最速ラップ獲得のためにピットイン、ソフトタイヤに交換してレースに復帰した。ボッタスが消えて2位に上がったとはいえ、ハミルトンには30秒もの大差を付けられていた。残り3周。目標は最速ラップだ。 残り2周を迎えてもハミルトンはまだタイヤに不調は感じていなかった。それでもチームの無線に従ってペースを落として走行した。 「最終ラップを迎えても何も問題はなかった。タイヤも完璧だった。ボッタスは激しくプッシュしてきていた。僕は慎重にタイヤ・マネージメントをしたが、彼はそうしているようには見えなかった。彼のタイヤが壊れたって無線で聞いた時に僕は自分のタイヤを見たけどいたってスムーズだった。コーナーでもクルマはちゃんと曲がってくれる。大丈夫だ、と信じていた」 51周目、かなりペースを落として走ったためにラップタイムは1分32秒135。その時、ソフトタイヤに替えたばかりのフェルスタッペンは1分28秒台でハミルトンに迫っていた。しかし残り1周。30秒の差があればハミルトンは楽勝のはずだった。ところが、最終ラップにはいって暫くして、彼の左前輪のトレッドが波打つのがわかった。パンクだった。 「心臓が口から飛び出るかと思った。ブレーキを蹴飛ばして速度をおとしたが、タイヤがリムから外れそうになるのが見えた」と、ハミルトン。 冷静なハミルトン この時点でハミルトンはまだふたつの高速コーナー、コプスとストウを抜けねばならず、最高速の出るハンガーストレートを走りきらねばゴールに辿り着けなかった。左前輪はまるで異なった意志を持った動物のように勝手に動くのだが、ハミルトンは可能な限りスピードを落とさないように、かつタイヤがリムから外れてしまわないようにクルマを操った。コプス・コーナーの速度は1周前の236km/hに較べて141km/h、ストウの速度は1周前の190km/hに較べて133km/hと落ちていた。。ハンガーストレートは僅か230km/hのスロー走行だった。 問題はいまや3輪になったクルマをコースから飛び出さないようにコントロールすることだけではなかった。フェルスタッペンが後方から猛烈な勢いで追い上げてきていた。最終ラップに入る時に30秒あった差は、ドンドン削られてきた。チームのエンジニアはそのタイム差を逐一ハミルトンに伝えた。その数字を聞くことで、ハミルトンは走りをマネージメントできるはずだという信頼関係が根底にあった。20秒、15秒、12秒、10秒……エンジニアは冷静に数字を読み上げ、ハミルトンもまたその声を聞きながら冷静にクルマを操った。そしてハミルトンがトップでゴールラインを横切ったとき、フェルスタッペンは6秒たらずの後方に迫っていた。 メルセデスの2台を襲ったパンクは、カルロス・サインツJr.のマクラーレンにも襲いかかり、ダニール・クビアトのアルファタウリをも餌食にした。クビアトの場合は右後輪だったが、他の3台は揃って左前輪だった。パンクの原因はまだ解明できていないが、ピレリの技術責任者のマリオ・イゾラは、強大なダウンフォースと周回の多さでタイヤに予想以上の負荷がかかったせいと考えている。今年のメルセデスは強大なダウンフォースを持つクルマで、それゆえスピードも異常に速い。例えばコプス・コーナーの通過速度は去年の225km/hに較べて11km/hも速い236km/h。イゾラはこの点を指摘して、「ダウンフォースの大きなクルマは速度が上がればタイヤに予想外の磨耗が起こる」と言う。 加えて、「磨耗が進んだタイヤはコースに散乱していた可能性のある小さな破片(キミ・ライコネンのフロントウイングの破片を指す)を拾いやすい」とも。幾つかの要因が重なってのパンクだが、当事者に取ればたまったものではない。 ゴール後、いくつもの声があちこちから上がった。ハミルトンはなぜタイヤ交換をしなかったのか? フェルスタッペンがタイヤ交換をしなければ勝てたのではないか? しかし、2位に入ったフェルスタッペンは「後でならなんとでも言える。タイヤのように他のクルマと同じパーツを使っている場合、他のクルマのそれがパンクしたら、次に自分にも起こるかもしれないと考えるのが普通だ。ボッタスのパンクは僕にとればラッキーだったが、それがハミルトンに起こるとは誰にもわからなかった。だから、僕は2位で十分に満足だし、3輪になったクルマをコントロールして優勝したハミルトンに賞賛を送りたい。彼でなければできなかった」と言う。 オーストリア、ハンガリーと3連戦の後で1周空けて行われたイギリス、スペインの3連戦の初戦。開幕前にレーシングポイントのセルジオ・ペレスが新型コロナウイルスに感染したことがわかり、急遽ニコ・ヒュルケンベルクが代役で起用されるような出来事があり(結局、スタート前にクルマにトラブルが発生してヒュルケンベルクは出走できなかった)、少しざわついたイギリスGPの始まりだった。案の定、最後の最後にドラマが待っていたが、それでもメルセデスとハミルトンの強さと上手さを見せつけられたレースだった。ハミルトンは90回目のポールポジション、母国のグランプリで7勝目という前人未踏の大記録を打ち立てて、波乱のイギリスGPの幕を引いた。 PROFILE 赤井 邦彦(あかい・くにひこ) 1951年9月12日生まれ、自動車雑誌編集部勤務のあと渡英。ヨーロッパ中心に自動車文化、モータースポーツの取材を続ける。帰国後はフリーランスとして『週刊朝日』『週刊SPA!』の特約記者としてF1中心に取材、執筆活動。F1を初めとするモータースポーツ関連の書籍を多数出版。1990年に事務所設立、他にも国内外の自動車メーカーのPR活動、広告コピーなどを手がける。2016年からMotorsport.com日本版の編集長。現在、単行本を執筆中。お楽しみに。 文・赤井邦彦

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