「てんかん」と診断される人は100人に1人いるとされ、多くは3歳までに発病する。ここ数年で薬の選択肢が増え、ようやく症状を抑えられるようになった患者もいる。日常生活で注意することを知り、周囲に理解してもらうことも、生活の質(QOL)の向上につながる。
合う治療薬が見つかるまで5年 4割の患者は薬で発作抑えられず
奈良市の井上尚美さん(42)の長女、優花さん(10)は1歳半のときに原因不明の急性脳症になり、後遺症で数秒おきに体がピクッと止まったり、右手足がガクガクこわばったりする発作が始まった。
てんかんの発作は、脳の一部が興奮している「焦点発作」と、脳の全体が興奮している「全般発作」とがあり、治療方針や薬の種類は異なる。優花さんは両方の発作があり、5年間で7種類の薬を試したが、合う薬はなかった。てんかんの患者に効果があるとされる、炭水化物を控えて脂質を増やす「ケトン食」を取り入れても、発作は減らなかった。井上さんは「あきらめてはいなかったけど、それまでの薬に期待できなかった」。
6歳だった2016年、フィコンパという薬を使い始めた。12歳以上の焦点発作か全般発作の一部がある患者に対しこの年、承認された。興奮を伝える物質の通り道にふたをし、過剰な興奮を抑える。大阪市立総合医療センターで4歳以上の子どもに治験が進められていた。主治医の岡崎伸医師からの説明で、フィコンパを併用することにした。
少量から始め、少しずつ量を増やした。5カ月後には発作がなくなった。それまで優花さんは軽くほほえむぐらいだったが、声を出して笑うようになった。いまは、夜に発作のような動きが10分前後あるが、井上さんは「優花にも合う薬があってうれしかった」。フィコンパは20年1月、投与の対象年齢が4歳に引き下げられた。
てんかんの薬は約30種類ある。ここ15年ほどでフィコンパのほかにも、「ラミクタール」や「イーケプラ」「ビムパット」といった新薬が次々と出ている。これらの薬は、脳内のどこではたらくかねらってつくっているため、副作用もある程度予測できる。18年に8年ぶりにてんかんのガイドラインが改正され、最初に使ったり、その次に使ったりする薬として推奨された。
海外の論文によると、最初の薬で効果がみられる患者は半数弱。薬を替えたり併用したりする場合なども含め、約6割の患者は薬で発作を抑えられる。残りは、薬では発作を完全に抑えられない「難治性てんかん」だ。岡崎さんは「新薬はこれまでの薬で抑えられなかった患者にとって、効果が期待できる。一方、使用経験は少ないため、ていねいな観察も必要だ」と話す。
1~2年かけて2~3種類の薬を試しても、発作を抑えられず、発作が生活に支障を与えている場合などは、脳内で発作の原因となっている場所の一部を取り除くなどの手術も選択肢になる。
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