9月26日。引退会見の翌日、一軍は午後1時から練習だったが、その6時間前の午前7時、阿部は球場に姿を見せた。午前9時から行われる二軍の練習に顔を出し、直接選手や指導者、スタッフに挨拶を行うためだった。
「19年間お世話になりました。これからまだ大事な試合がありますし、皆さんもあと3試合、シーズン（イースタン・リーグ公式戦）が残っているということなので、この練習前の貴重なお時間をいただきます。
皆の中には若い選手もいるし、これから壮大な夢を持って野球をできることを誇りに思って今後やってください。僕も何らかの形で皆に携わるかもしれませんし、僕もそれを夢に今後残りCS、日本シリーズいけるように精いっぱい頑張りますので、皆も残り3試合精いっぱい頑張ってください。
本当に色々お世話になりました。ありがとうございました」
スーツ姿で挨拶を終えた阿部はロッカーに姿を消した。しかし、10時過ぎにはトレーニングウェアに着替え室内練習場に姿を現した。30分間、黙々とランニングを行うと、バットを手にし約1時間、打ち込んだ。
阿部の視線は翌日の引退記念試合よりもその先にあるクライマックスシリーズ、そして日本シリーズに向いていた。残り少ない時間を全て野球に捧げていたのだ。
だから生まれた本塁打。ファンからは「引退する人の打球じゃない」「十分DHで通用する」「泣いた」「なんで引退するんだ」など、惜別の声が相次いだ。慎之助コールが鳴りやまなかった東京ドーム。試合後は優勝セレモニーで挨拶をしたが、胴上げはなし。クライマックスシリーズから日本シリーズへ、この先にまだ戦いが残っていることを呼び起こさせた。
「クライマックスシリーズを勝ち上がったら……」
「阿部さんのためにとかは絶対いらない。阿部さんに花道をと言ってもらえるのはすごく嬉しいけど、それが重荷になってほしくない。とにかくみんなが自分のやるべき事に集中して日本一になりたい。優勝は良いもんだぞっていうのは若い子たちにも経験させてあげられたから、あとは日本一になって銀座のパレードの景色を見せてあげたいんだ」
阿部の引退記念試合翌日の一戦をもってシーズンの全日程を終えた巨人は、2日間の休養を挟んで10月1日からクライマックスシリーズに向けた練習を再開した。その初日の夜、阿部は全選手、スタッフに声をかけ決起集会を行った。全額、阿部の自腹である。
「今日この場で英気を養って、とにかくみんな最後は勝とうぜ！」という号令で始まった会は大いに盛り上がり、店にあった酒という酒を飲み干し店員が慌てて補充に走ったほどだった。最後に阿部はこんな言葉で会を締めくくった。
「クライマックスシリーズを勝ち上がったらもう1回決起集会を自分主催でやらせてください！」
チームメートは、「あと2回お願いします！」と返した。翌日行われた紅白戦は無人の東京ドームにチームの活気あふれる声が響いていた。
引退試合を終えて坂本勇人はこう話していた。
「今年の阿部さんを見ていても、まだまだやれるという中で、ああやってスパッと決断されてビックリしています。巨人軍の伝統だったり、チームの勝ちに対する執念とか、受け継がれてきた伝統を教えてくれたのは阿部さんですし、次は僕が阿部さんから受け継いだものをつないでいきたい」
坂本とともにルーキー時代からグアム自主トレに同行した長野久義は、こう話す。
「若い頃はたくさん怒られましたが、阿部さんに褒められたいという思いで野球をやっていました。阿部さんがいなかったら今の自分はありません。僕だけではなくみんながまだまだできると思っているので寂しいですが、阿部さんが決められたことなので。本当にお疲れ様でした」
直球を磨け、とかつて教えられ不動のエースに成長した菅野智之。
「今のピッチングの原点は阿部さんの教えが根底にあるので寂しい気持ちになる。ジャイアンツの大黒柱だったので。阿部さんは“有終の美を飾らせてほしい”と話していました。僕もそこにしっかりと携われたら」
この日バッテリーを組んだマシソンも「野球人生の中で最高のキャッチャーに投げられたことが光栄です」と感謝の言葉を述べた。
試合後の車中。本塁打は狙っていたと言う阿部に「引退する選手の打球じゃなかったですね」と誘い水を向けた。しかし阿部は「（引退は）自分でもしっかり心に決めたことだから」と振り返りもせず、「捕って、投げて、打ってに未練は残らないですか？」と聞いても、「いや残らない。もういい。痛いのは」と素っ気なかった。
「何だか清々しい表情ですね」と語り掛けると、そこでようやく表情を崩し、「いい記念になったよ、あのファウルチップが。本当に」と笑顔を見せた。その間、阿部の携帯電話はメールの着信を知らせる振動が鳴りやむことはなかった。
無数に届く知らせの1つ、中央大野球部の仲間から送られてきた動画を見た阿部は頬を緩ませた。
「水道橋の駅でこんなことやってくれたんだ。すごいね、これは」
JR水道橋の駅では列車の発着時刻を知らせる電光掲示板に「阿部慎之助選手19年間お疲れ様でした！ 今後も巨人軍を永久に導いてください！ ありがとう慎之助」というメッセージが流されていた。東京ドームからの帰りにそれを目撃した仲間が動画で撮影し、阿部に送ってきたのだ。
"それの残り" - Google ニュース
May 03, 2020 at 08:15AM
https://ift.tt/2KSOpkd
日本シリーズ後に行った阿部の「儀式」 引退直前にも数々のエピソードがあった - スポーツナビ
"それの残り" - Google ニュース
https://ift.tt/382YkO0
Shoes Man Tutorial
Pos News Update
Meme Update
Korean Entertainment News
Japan News Update
No comments:
Post a Comment